この連載では再開後のJリーグでさらなる活躍が期待される各クラブの注目選手を紹介していく。連載第20回はアビスパ福岡の新戦力で、今季開幕戦でいきなりその力を示したFW、遠野大弥について綴る。

際立つ前を向く力

ゴールへの高い意識と積極的な仕掛けも遠野の魅力だ(写真◎J.LEAGUE)

 際立つのは前を向く力だ。

 速く、巧みに反転し、ボールを縦に運んでいける。とにかく、ムダがない。狭い囲いの中にあっても、やすやすと抜け出していく。その機動力についていける守備者はそうはいないはずだ。

 前を向いてからのドリブルやシュートの意識が持ち味――と、本人も自信を隠さない。実際、プロの世界に身を投じて、天皇杯で深めた手ごたえが確信へと変わったか。何しろ、開幕戦ではペナルティーエリア内で守備者を背負いながらシャペウ(ボールを浮かし、敵の頭上を抜く技)をかまし、くるりと反転する軽業まで演じている。
 
 うかつに飛び込むと火傷するぜ――と、言ったかどうかはさておき、瞬間的にアイディアがひらめくだけの落ち着きと余裕があったのは確かだ。だから周囲と密接にリンクしながら敵陣を崩しにかかる余白も十分だった。

 ターゲットマンのファンマにボールが収まると見るや、間髪を入れず裏へ。そのまま縦に運んで敵の守備者を引きつけると、最後はフリーの福満隆貴へラストパスを送り、決定機をつくる場面もあった。各々の動きが鎖のようにつながった鮮やかな速攻。まるで何年も前から一緒にプレーしてきたかのようだった。

 この先、味方とのつながり具合がさらに洗練されたら、どうなるか。遠野を触媒にしてファンマはもちろん、石津大介や福満といった多士済々のアタック陣が数多くの見せ場をつくることになりそうだ。楽しみはふくらむばかりだ。

 ちなみに、開幕戦で残り10分に遠野に代わってピッチに送られたのがあの城後寿だった。福岡ひと筋16年のバンディエラ(旗頭)だ。この人をジョーカーに使えるのも魅力的だが、遠野と一緒にプレーさせたら――と、想像せずにはいられない。互いの個性が見事に響き合うんじゃなかろうか。彼らの「共演」する日が待ち遠しい。

Profile
とおの・だいや◎1999年3月14日生まれ、静岡県出身。藤枝明誠高からJFLのHonda FCに入団。3シーズン目の昨年に大きく飛躍し、JFLベスト11にも選出された。今年、川崎フロンターレに移籍し、アビスパ福岡へ期限付きで加入。Jリーグ初挑戦ながらJ2開幕戦でいきなりゴールを挙げている。FW。165㎝、66kg