上写真=今季からトップチームでプレーする藤田譲瑠チマ(写真◎杉園昌之)
「持っているものはすごい」
沖縄県八重瀬町の東風平運動公園サッカー場で行なわれた練習試合。『ヤングヴェルディ』の攻撃を組み立てるのは、卒業前の高校生だ。顔にはあどけなさが残るものの、がっちりした体格は17歳のそれとは思えない。ピッチ上ではピッチを所狭しと動き回り、ミスをしながらもパスを散らした。
まだポジショニングや判断の甘さは見える。そのたびに大きな声が飛んだ。ベンチの永井秀樹監督からは「ジョエル、お前が下がるんだよ!」と怒鳴られ、ピッチ上では主将の大久保嘉人から「ジョエル、ここにパスだよ!」と大声でどやしつけられていた。よほど期待が大きいのだろう。ナイジェリア人の父と日本人の母の間に生まれた藤田譲瑠(ジョエル)チマはしかし、めげることなく、厳しい声に素直に耳を傾けている。
「嘉人さんが言っているのは、的を得ていることばかり。しっかり受け止めて、次にどうするのかを考えたい」
昨季は2種登録選手としてJリーグデビューを果たし、J2リーグ4試合に出場。年代別代表としてU-17ワールドカップにも出場しており、将来が嘱望されている逸材だ。今季トップチームに昇格し、攻撃の軸となるべく鍛えられている。
本人も甲高い声で積極的に先輩たちを動かし、物怖じしている雰囲気はまったくなかった。ゴール前で大久保にパスを要求されても、自らの判断でシュートを選択。直後に大きな声が飛んだものの、気にする様子はない。図太くなければ、プロでは生き残っていけないのだ。
「間接視野で見えていましたが、あそこはシュートで終わりたかったので」
大久保が厳しく指導するのも、見込んでいるからこそ。キャンプでは同部屋で、サッカーのイロハから叩き込んでいる。川崎Fとの練習試合後には中村憲剛に引き合わせ、いろいろ話をさせた。藤田本人も金言を心に留めていた。
「ボールを持ったら、まず前。それがダメなら斜め前、横、最後の選択肢がバックパスだ」
ボランチとしては当たり前のことかもしれないが、大先輩からの助言は貴重なもの。プロのスピードにも徐々に慣れ、持ち味を少しずつ出せるようになってきた。指導役の大久保も、潜在能力の高さを認めている。
「体が強いし、持っているものはすごい」
ただ、甘やかすつもりはないようだ。ほめるだけでは終わらない。
「いまのところは、良いところはほとんどないですが、鍛えがいはありますね。将来は代表までいくかもしれません」
J1の歴代最多得点者に、そこまで言わせる俊英の今後が大いに楽しみだ。
文・写真◎杉園昌之