9月12日の明治安田J1リーグ第7節で、横浜F・マリノスは首位のFC町田ゼルビアに対してあとわずかなところで勝利を取り逃がした。しかし、強力な攻撃陣をシュート1本に抑え込んだ前半は特に、トリコロールの成長をはっきりと示した。その「秘策」とは?

上写真=明本考浩(中央)を井上太聖(右)と近藤友喜の「ダブルチーム」で抑えにかかる(写真◎J.LEAGUE)

■2026年9月12日 明治安田J1第7節(観衆48,623人@MUFG国立)
町田 1-1 横浜FM
得点:(町)望月ヘンリー海輝
   (横)谷村海那

「そこは遅れてもいい」

 12分に谷村海那が幸先よく先制し、81分に明本考浩が退場して横浜FMは数的優位に立った。ところが、そのわずか3分後の84分に同点にされ、1-1のドロー。「自分が大きく跳ね返せば失点はなかったのに…」と唇を噛んだのは、右サイドバックの井上太聖だ。

 悔しさが深く刻まれることにはなったが、ここまで1試合平均3ゴールを奪って負けなしの首位・町田を相手にシュートを1本しか打たせていない前半は特に、素晴らしい出来だった。

 井上の目の前には、相馬勇紀、そしてベルギーから戻ってきた明本考浩がいた。クイックネスとスプリントとテクニックを兼備する、町田自慢の「2段ロケット」だ。勝負の行方を直接的に左右するホットエリアを、井上は任された。

「こっちのサイドは相手のストロングで、攻撃力はJ1リーグでも一番と言えるスペシャルな2人がいます。そこは(近藤)友喜くんとも絶対に抑えようと話していて、うまくできていた。だからこそ、悔しい」

 相馬と明本は前後左右に自在にポジションを入れ替えて、2人だけでカオスを作り出すことができる。混乱したら負けだ。ていねいに、ていねいに対応した。

「自分たちの(最終ラインの)4枚に対して5枚が出てきたりするので、大外は遅れてしまうのは仕方がない。外での対人守備は僕も友喜くんも自信を持っているので、そこは遅れてもいいという判断の中で90分間やっていました」

 自陣での人数が瞬間的に足りなくなるが、一番外側は対応の優先順位を下げる意識を共有した。そのおかげで近藤との関係が崩れることはなかった、という強い実感を手に入れた。

「相手も嫌がってるような感じだったし、(飯倉)大樹さんのスーパーセーブもありましたけど、90分を通しても本当に自信を持てるような内容ではあったかなと」

 そして、ここに加わるのが山根陸である。

山根陸の「右」

 山根が先発するのは、前節に続きこれがまだ2試合目だ。出番を渇望してきたボランチにはしかし、前回のゲームと異なることがあった。左だったポジションが、この日は右。

「相馬選手にはカットインからのクロスがあるので、チーくん(知念)がそっちに引っ張られるよりも、自分がマークに行って、チーくんは中でどっしり構えてほしいということ。チーくんの方がサイズもあるし、競り合いの強さを考えたときに、逆がいいかなと」

 この「左右反転」が効いた。

「僕のサイドはポケットのところをうまく使ってくるけれど、センターバックをそこに出したくなかった。だから、自分がそこについていくことを90分通してやれたと思います」

 サイドのレーンは対人守備に自信のある井上と近藤のコンビで見張る。その内側に入ってきた選手は山根がチェックして、中央はもう一人のボランチである知念と、センターバックの2人、ジェイソン・キニョーネスと諏訪間幸成が固める。さらに逆サイドのサイドバック、角田涼太朗が絞ってくる。

 そんなメカニズムによる重層的な守備が功を奏した。決して奇策ではないかもしれないが、小さな綻びも許されない緊張感は最後まで張り詰めていた。

 井上はその「秘策」に、自信と、だからこその悔恨をかみ締めていた。

「2列目から抜け出してくる選手に対しては、ボランチがついていこうと話していて、中にはヘディングの強い相手選手がいたので、センターバックはそこにはあまり出ていかないように、ということは1週間ずっと準備してきました。その準備してきたものがちゃんと全部出たし、勝ちに値するゲームだったと思います。でも……それも全部含めて悔しいです」

 勝ち点2がその手からこぼれ落ちたけれども、スティーブ・コリカ監督は「内容は良かった。選手を責めるわけにはいかない」と、結果とは別に、確かな評価を与えた。追いつかれたというネガティブな事実によって、選手の中の自信はいくらか損なわれたように感じるのかもしれないが、失わなくてもいい自信まで自分たちから放棄する必要はない。