J1リーグ6節を終えて、現在、4勝1分け1敗で2位につけるヴィッセル神戸。タイトル獲得を目指すチームの中で、攻守両面で存在感を示しているのが、酒井高徳だ。今年35歳となったが、そのプレーはますます精度を高め、まばゆい輝きを放っている。

酒井が考える『サッカーがうまくなる』とは?

酒井は最終ラインでも中盤でもそのプレーでチームに安心感をもたらす(写真◎J.LEAGUE)

 19年夏にJリーグに復帰。ヴィッセルでのプレーも8シーズン目を数える。その過程では、ヴィッセルが獲得した全タイトルのど真ん中で戦ってきた。

 だが、在籍年数が増えても「やることは大きく変わっていない」。ヴィッセルに加入するまでは『タイトル』とは無縁のキャリアだったからこそ「それを手にしたことで積み上げられてきたものも確実にある」と振り返るが、かといって「サッカーがうまくなっている感覚はない」そうだ。この意外な答えには理由がある。

「サッカーがうまくなる、という表現は大抵の場合、キックの質やパスの精度といった技術面の向上を指すと思うんです。もちろん、そこは僕も日々の練習から意識しているし、追求はしていますが正直、そこが劇的に向上するように目指しているのかというと、そうじゃない。それよりも大事にしているのは、ハードワークとか、強さ、速さ、タフさをどれだけ試合で表現できるか。自分の培ってきた経験値をチームに還元しながらプレーすることで、チームに厚みや連動性をもたらすなど、自分のプレーによってチームができることをいかに増やせるか。そこへの意識は年々大きくなっています。

 その中で、僕が加入してからのここ数年は、チームとしても確実に選択肢が増えたし、僕自身も相手のシステムに応じたポジショニング、自分のサイドにどんなタイプの選手がいるかに応じたプレー、自分たちが劣勢か攻勢か、状況に応じてポジションを取って周りを動かす回数も増えている。それを『うまくなっている』と表現していいのなら、僕もうまくなっていると言えるのかもしれません」

 そして、その意味での成長を自分に見いだすために、今も酒井は『チームができることをいかに増やせるか』から逆算した日々を積み重ねることにすべてを注いでいる。

「サッカーも人生も、習慣になったことは自然とできるけど、新しいことは忘れるのも早いと思うんです。だからこそ日頃のトレーニングでやりたいプレーを習慣化するために意識して、意識して、やり続けなければいけない。例えば、パス練習1つとっても、それを1意識するのか、4意識するのか、10意識するのか。それによって備えられるものは絶対に変わってくるし、その意識が強まれば自然と他のトレーニングをする時にも関連づけて考えられる。例えば、チームでなぜパス練習をするかといえば、何も1対1のパス交換がうまくなるためではなく、ポゼッションサッカーをしたいから必要だよね、というように。そんなふうに各々が1つ1つのプレーにこだわって取り組めば練習の質や中身は確実に変わっていくし、それがチームの結果にもなっていく。そこは僕自身もこだわって、今も積み重ねています」

 酒井のいう『関連づけ』は何もプレーに限ってのことではない。タイトルを取れるチームはどんなチームなのか。逆に取れないチームはどういうチームなのか。強いチームと崩れるチームの違いは何か。シーズンを通して結果を見出せるチームと、波があるチームは何が違うのか。さらに細かく言えば「チームの中で危機感を持つべき時はどんな時で、乗れている時にはどういう時なのか」。

そして、神戸はなぜ、強くいられるのか。

19年目を数えるプロキャリアで経験してきたことのすべてを『今』に関連づけて考え、日々を過ごし、それをプレーで表現することを続けてきたから、彼は今も第一線で戦い続けているということだろう。

「このクラブに来て、クラブやいろんな方の協力のおかげで経験できてきたこと、自分のキャリアにおいて国内外で経験させてもらってきたこと。その経験値を神戸のタイトルのために注ぐことはこれからもやっていきたいし、今シーズンもすべての大会でタイトルを目指すことを明確にして戦っていきたいと思っています」

 欲してやまない『タイトル』を手に入れるために。厳しい勝負の世界で常に勝者であり続けるために。

取材・文◎高村美砂[フリーランスライター]