明治安田J1リーグ第32節、川崎フロンターレ対柏レイソルは打ち合いの末に4−4のドローに終わった。決着こそつかなかったが、その内容は見る者の心を大いに刺激するものだった。

上写真=川崎Fの3点目をスコアした脇坂泰斗(写真◎J.LEAGUE)

試合後の言葉に指揮官の志向がはっきり

後半のアディショナルタイム突入直前に柏レイソルの三丸拡が放った左足のミドルシュートが鮮やかに決まって4-4。双方ゴーラッシュの末に川崎フロンターレ対柏の試合は引き分けに終わった。

 サッカーの醍醐味が詰まった素晴らしい試合の後、両チームの指揮官の話す言葉は対照的だった。まず柏のリカルド・ロドリゲス監督が記者会見に臨み、優勝争いをするチームにとって勝ち点3を取れる可能性は十分にあった点を悔やみながらも「神戸、セレッソ、広島、そして今日の川崎とどれも勝つにはとても難しい相手です。それにもかかわらず、選手たちは本当にすべてを出し尽くしてくれています。シーズン終盤というのはケガ人や出場停止、そして疲労もあり、そのような状況の中、出場した選手たちが素晴らしいプレーを毎試合してくれています」と選手たちの奮闘と目指してきたプレーの実現を称えた。

 対して川崎Fの長谷部茂利監督はまず4失点したことにフォーカスし、「自分たちの4失点もするような守備。穴が空いてしまった。つたない。戦術プラス、連動というか、チームとしてやれることができていない、やるべきことが少しおろそかになったところがありました。もちろん、私が落とし込めていないという見方になりますが、そういう大きな反省が残る試合でした」と、自分の責任と断った上で守備の崩壊を悔やんでいた。アディショナルタイムまで勝ち越していただけに悔しさはより強いのだろうが、良いプレーを称える監督と失点を悔やむ指揮官に、チーム作りの方向性、フィロソフィーの違いが垣間見えた。

 それはこの日のプレー、それぞれのゴールにも表れている。柏の得点は早い時間帯に失点した後、両サイドから、中央からと、攻撃の糸口を探り、15分に中盤から山田雄士が差し込んだクサビのバスを垣田裕暉が川崎CBの間で受け、右回りに素早くターンして左足を振り抜いて同点とした。前半のうちに逆転に成功した2点目は自陣からドリブルで攻め上がった杉岡大暉が逆サイドへ送ると、フリーで受けたこの日初めて右ウイングバックでプレーしたジエゴが得意の左足を振り抜き、内側にカーブした軌道でポストに当てて決めている。

 前半のアディショナルタイムに追いつかれて後半に再びリードを許した後には、ジエゴの右サイド突破から逆サイドに飛んだボールを小屋松知哉がトラップし、ペナルティーエリア外へ戻し、走り込んだ中川敦瑛がダイレクトで鮮やかに決めた。そして三丸の4点目は右から繋いだボールをフリーで受け、左足を振り抜いた。4点とも展開もシュートそのものも鮮やかな柏が目指すプレーによるゴールだった。

 これに対し、川崎Fの得点は開始7分に柏のパスミスを奪った伊藤達哉がファウルを受けて得たPKをロマニッチが決め先制。前半のアディショナルタイムには柏のCKからつないだボールを奪って仕掛けたカウンターの流れから、左サイドで受けた伊藤がわずかなコースをつくって決めた。後半の3点目はボールを動かして山本悠樹の縦パスをマルシーニョがヒールで流し、受けた脇坂泰斗が入れ替わって決めた鮮やかなもの。4度J1を制した頃の川崎Fを彷彿とさせるようなゴールだった。そして4点目は左サイドから三浦颯太と宮城天のコンビネーションでカウンターを仕掛け、三浦の折り返しをロマニッチが押し込んだ。奪ったボールを素早くシュートチャンスにつなげる今季の川崎Fらしい得点ばかりで、長谷部監督が目指す厳しい守備から生まれたもの。図らずも両チームの特長が攻撃面に表れていたと言える。

 いずれにせよ、指揮官の思惑にかかわらず見る者にとっては楽しく、美しい、サッカーの魅力にあふれた試合だった。この試合を見た人はスタジアムにまた来たいと思うだろうし、私自身もこういう試合をもっと見たい。Jリーグ、ひいては日本サッカーにとって有益な試合だった。

 堅い守備をベースにして強度の高いプレーが求められ、それを実践しているチームが結果を残している傾向にあることは確かで、それを否定するものではないが、そういうチームばかりになってしまってはサッカーの面白さが半減する。様々なスタイルのチームが存在することがJリーグの魅力でもある。今季の柏や全盛時の良さも残す川崎Fのようなチーム、ボールを大切にしてゴールを量産するチームの活躍に期待したい。

文◎国吉好弘