上写真=東慶悟(左)は焦れずに戦うチームの意思統一の中心になった(写真◎J.LEAGUE)
■2025年9月23日 J1第31節(観衆:24,412人@味スタ)
FC東京 1-0 福岡
得点:(F)マルセロ・ヒアン
リスクとチャレンジのバランス
「クロスが来ると思ってましたし、自分もいいポジションが取れたと思うので、そこにいいボールが来て、いいポジションが取れて、いいゴールが決められました」
と、決勝ゴールを決めたマルセロ・ヒアン。
「ずっと結果がほしかったので、ヒアンが決めてアシストをつけてくれて感謝したいと思います」
と、アシストした安斎颯馬。
この日、唯一のゴールとなった41分の一発は、右から安斎がカットインして左足でスピードのある鋭いクロスを送り、マルセロ・ヒアンがヘッドでていねいにゴール右に流し込んだものだ。
クロスもシュートも素晴らしかったが、そこに至るまでの「つながり」に、チームの成長が見て取れる。相手のクリアを拾った室屋成から始まり、8人の選手の間をボールが走り、18本目のパスでゴール前に届け、57秒とじっくりと時間をかけて決めたもの。松橋力蔵監督がアルビレックス新潟を指揮していたときに何度も誇ったような崩しのスタイルが、見事に表現されていた。「力蔵トーキョー」の大きな果実だ。
「リハーサルでの相手のプレッシングの形と(実際の試合が)本当に近いような中で、各選手が誰を見ながら動いていくかというところは非常によくできていました。ただ、どこでチャレンジするか、そのスイッチを入れるタイミングはもういくつかあったと思いますが」
中2日で準備期間は短かかったが、福岡が想定通りのプレスの方法で立ち向かってきてくれたから、その「外し方」もトレーニングで十分に落とし込むことができていた。
ピッチの上でも、自信を持って相手を揺さぶっていた。3試合ぶりに先発した東慶悟は安斎のアシストの一つ前のパスを送るなど、ボールローテーションの中心になった。
「相手が5-4-1という形で前向きに守備してくる中で、どうこじ開けて、どう間延びさせるか。そこは焦れずにできましたし、いい形でゴールできたのでメンタル的にも優位になりますし、相手も中途半端になって、退場もしましたしね」
「焦れずに」がこの日のキーワードだろう。右に左にとボールを走らせて相手をスライドさせるパスワークは、ともすれば「外回し」と皮肉られることもあるが、このゴールシーンではまさに慌てずに静かにボールを動かしておいてから、安斎のクイックなカットインでテンポに変化を加えている。そのギャップが生きることになった。
「(意識したのは)ボランチとセンターバックとの距離感。それから、相手のボランチが僕のところに来たら、その裏や脇が空くというのは準備していました。それで相手も困ってたのかなと」
前半のアディショナルタイムに福岡のFWウェリントンが退場し、数的優位で後半を迎えた。だが、こちらはノーゴール。
松橋監督には反省がある。
「一人多い状態で攻撃ができる、守備もできるというところで、攻撃では我々の色がさらに濃く出せると思っていました。ただ、それを出し切ることによってリスクがあって、相手は必ず狙ってきます。そのリスクをどれだけ取るかというところの線引きを、少し僕がセーフティーに言い過ぎたかなと思っています」
「確かに、リキさんの言うこともすごく分かる。でも…」と東は後半の戦いに大きな不安を感じているわけではない。
「相手が明確に下がって、後半はもっとチャレンジできるシーンはありました。リスクとチャレンジのバランスはもっともっとうまくやれればと思いましたけど、まずは勝つことが大事。無理に点を取りにいって裏返されて追いつかれるのは得策じゃないし、そこのバランスってサッカーはすごく難しい。でも、相手に決定的なチャンスはなかったし、攻めるだけがサッカーではないので、ゲームをコントロールして勝つことが一番重要だと思います」
数的優位だったこともあるが、勝利から逆算して意思統一を基盤に戦うことができた。すべて1-0での3連勝は、こんなところにも秘訣がありそうだ。
リーグ戦の残りは8試合。FC東京には天皇杯準決勝も待っている。
「試合に絡めない選手も、こうやってチャンスが来たときにいいプレーをしないと」
と、気を引き締めるのは東。
「一つ、アシストがついたのはいいですけど、まだまだやっとのアシストなので。数字で言ったら全然誇れるものではないです。今後まずは激しい競争が待っているので、結果を出すことがその勝負に勝つことだと思うので、まずは試合に出て、いま一番激しいサイドバックの競争に勝つことを意識してやっていきたい」
と、長友佑都や室屋成、バングーナガンデ佳史扶らとのハイレベルの戦いに挑む安斎。
このチームの成長には、まだまだ続きがある。