7月15日、セレッソ大阪からアルビレックス新潟への覚悟の完全移籍を発表してからおよそ1カ月半。舩木翔はいまやオレンジ&ブルーのクラブに欠かせない存在となった。チームは最下位と苦しむが、それでも最終ラインに立って守って攻める、その「現在地」について聞いた。

上写真=舩木翔は7月に加わったばかりとは思えないほどフィットしている(写真◎J.LEAGUE)

■2025年8月31日 J1第28節(観衆:30,968人@埼玉ス)
浦和 1-0 新潟
得点:(浦)マテウス・サヴィオ

「自分がつぶせていたら…」

 舩木翔は8月31日、埼玉スタジアムの90分で2つの「ビッグプレー」に関与した。

 22分、右から荻原拓也が折り返してきて、中央に中島翔哉。そのシュートの瞬間、重心低く体を倒しながらシュートコースに入ってブロックした。浦和レッズのビッグチャンスをつぶしてみせた。

「自分はあのようなプレーのために来たと思っています」

 センターバックとしてゴールを守ること。

「新潟が残留するために、いまのフロントの皆さんやコーチングスタッフの皆さんから熱い言葉をいただいて、自分もそれに貢献したいという気持ちで来ました。だから、あのプレーは当たり前のことで、自分は与えられた役割をこなしているだけ。あそこで1点防いだからどうだというふうにはあまりとらえていないというか」

 あれは特別なプレーではない、というわけだが、もう一つは、残念ながら失点のシーンだ。30分、最終ラインのダニーロ・ボザの縦パスを小森飛絢が落とし、金子拓郎が拾って持ち出しラストパス、マテウス・サヴィオに蹴り込まれた。小森にポストプレーを許したのが舩木だった。

「自分がつぶせていたら何事もなかったシーン。1人で守ってるわけではないし、みんなで守らないといけないとはいえ、個人の戦いで100パーセント勝つことが自分の仕事だと思います。ただもちろん、勝てないシーンもあるので、ほかの選手もゴールに向かって戻るとか、自分のマークを見失わずに走るとか、そういうことが大事になる。でもやっぱり、自分があそこでつぶせていたら…」

 個人で負けて、組織でも負けた。二重の後悔に襲われていた。

 これが決勝点となって0-1で敗れ、9試合も白星から遠ざかることになった。舩木はまだ一度も新潟での勝利を味わっていないから、声も重たくなるが、4試合連続のフル出場で、存在感が一気に増しているのも確かだ。

 キャプテンの堀米悠斗も大きな信頼を隠さない。

「ラインコントロールに関しては翔がかなり率先して、きつい時間でもラインアップしろと声をかけてくれる。後ろはカバーしますからどんどん前に行ってください、と。サイドバックとしてはすごくやりやすくて頼もしいなと思ってます」

 コンパクトを心がける守備を土台にして、ビルドアップでの貢献も確かだ。

 貴重な左利きのセンターバックで、最終ラインから長短のボールを出し入れできる。左寄りから逆サイドのウイングまで軽々と飛ばせるし、同じサイドのサイドハーフやサイドバックへのオープンパス、あるいは最前線に差し込むストレートパス、裏のスペースに落とすようなフライパスと種類は豊富だ。左サイドの攻撃が活性化されたのも、舩木の幅広いプレーエリアと確かな判断がもたらす安定感と無関係ではないだろう。

「攻撃でも自分たちがボールを保持して作ることができているシーンは後ろから見ていて何度もあって、そのビルドアップに自分も参加して助けになれていると思います。自分の特徴もみんなが分かった上でポジションを取ってくれていますし」

 ゴールを奪えていないし、勝てていないという現実はある。それでもどん底の頃からすれば攻撃のテンポは上がってきたし、ノッキングを起こすシーンもあまり見られなくなった。舩木をはじめ、ボランチの白井永地と植村洋斗、サイドハーフの小原基樹、マテウス・モラエス、島村拓弥、FWのブーダと7人の新戦力がフィットしてきた何よりの証拠だ。

 だから舩木は、その攻撃に残留への大きな可能性を感じている。

「自分たちが主導権を持って攻撃していけば、支配率も上がっていく。そうすれば、相手に攻撃されることももっと減っていく。だから、もっともっと攻撃したい。左サイドバックがゴメスくん(堀米)でも(橋本)健人でも、攻撃で良さが出る選手。そこを出してあげるのが自分の仕事だから、そういう声かけはしているつもりです」

 相手の逆を取りながらボールを走らせる痛快な攻撃は、このチームの大きな魅力だった。一度は失いかけていた「新潟らしい攻撃」への情熱が、覚悟の移籍を決断してやって来たセンターバックによって甦ろうとしている。