上写真=川崎Fが難しい試合を強いられた。次に生かしたい(写真◎J.LEAGUE)
■2025年8月9日 J1第25節(観衆:22,062人@U等々力)
川崎F 2-5 福岡
得点:(川)橘田健人、エリソン
(福)名古新太郎2、上島拓巳、碓井聖生、紺野和也
「変わらない武器」も
万物は常に変化し、変容していくもので、川崎フロンターレも同じこと。
特に今季は長谷部茂利監督を迎えて新たな時代に入り、5月にはAFCチャンピオンズリーグエリートでクラブ史上最高成績となる準優勝という輝かしい実績を残した。一方で、この夏には高井幸大がトットナム(イングランド)へ、山田新がセルティック(スコットランド)に旅立ち、代わってDFフィリップ・ウレモヴィッチ、FWラザル・ロマニッチが加わった。
変化、という意味では、その2人のプレーぶりに注目が集まった。このアビスパ福岡戦で先発デビューを果たしたウレモヴィッチは、残念ながら15分でレッドカードを受けて、その実力のほどを見極める時間がほとんどなかった。一方で、ロマニッチは72分にエリソンに代わってこちらも初出場、20分強のプレータイムで好印象を残している。
2-2のイーブンスコアでの登場となったものの、直後に失点して、すぐにビハインドを追いかける展開になった。2人少ない9人での戦いを強いられていたにもかかわらず、最前線で精力的に顔を出してできるだけ高い位置にボールを運ぶことを促し、受ければシンプルに前向きの選手に預けて自らは次のアクションを起こす献身性と連続性を見せた。プレーテンポを高めるのに適した特徴を披露して、今後に期待を抱かせるのに十分だった。
逆に、難しい展開に「変わらない武器」も見せて対抗していた。ピッチの中での冷静な分析力だ。
2人少ない状態で入った後半の戦い方を、脇坂泰斗と山本悠樹が同じような言葉を使って説明した。
「できるだけ同点の時間を長くして、最後に決められるだけの選手がいるので、僕たちはまずは耐えようと9人で話していました」と脇坂。山本はさらに詳しく踏み込んだ。
「まず第一前提として、本当に失点しないこと。リードされると全体的に難しくなるし、9人で前から人数を合わせて奪いにいくのはなかなか難しいので、その引き分けている状態をどれだけ長くできるかというところでした。相手もなかなかボールを持ててはいますけど入れていないとか、フラストレーションを感じているなという空気もあったので、その時間がもう少し長くできればと」
確かに福岡は、川崎Fの集中守備に対してボールを持て余すような時間もあった。そこにはやはり、川崎Fへのリスペクトもあったようで、名古新太郎はこんなふうに口にしている。
「相手は人数が少ないとはいえ、力があるチームです。10人であっても9人であってもひっくり返す力のあるチームですし、実際に過去にもやっている」
川崎Fが対戦相手に与える警戒心も変わってはいなかった。だからなおさら、後半の戦いに限定すれば、結果的に逆転を許した73分の3点目が潮目になった。
新戦力の台頭という「変化」のポジティブな面と、数的不利でもピッチで勝ち筋を見つけ出す冷静さという「不変」の魅力を見せた。加えて、「変化」の別の側面をもう一つ挙げるとすれば、感情を利用する方法の部分だろうか。
15分のウレモヴィッチの退場、45+7分のファンウェルメスケルケン際の2枚目のイエローカード、73分の逆転ゴールとなったPKなど、試合を大きく揺さぶるジャッジが続いた。清水勇人主審らの審判団に対しては、前半終了時点や後半の飲水タイム、試合終了時点で大きく厳しいブーイングが向けられた。
そのほかの細かな判定に対してもベンチもピッチもスタンドも大きくリアクションして、ベンチのスタッフがたしなめられるシーンもあった。山本は笛が鳴ったあとにボールを大きく蹴り出して遅延行為で警告を受け、橘田健人もPKシーンに関わる異議で同じくイエローカードを提示されている。いずれも、このスタジアムでは珍しい光景だった。
ホームスタジアムでは、どんな小さなことでも自分たちの利益にできるように振る舞うのは真っ当な心理だ。2人欠けた状態で戦うのは心理的な困難も伴う。ただ、このクラブの歴史を見れば、あえてそこに大きなウェイトを置かずに戦ってきたのも確かである。
だから、感情も材料にして、いわば「戦う劇空間」を作ることで勝利の確率を高めようとするのも「変容」と言えるだろう。その意味で、これはただの一つの黒星ではなく、クラブの次なる選択が象徴的に示されたゲームだったのかもしれない。