6月25日に行われた明治安田J1リーグ第15節で、アルビレックス新潟は川崎フロンターレに1-3で敗れた。樹森大介監督の解任、入江徹監督の就任という荒療治からわずか2日で臨む難しい一戦。敗れたものの、キャプテンの堀米悠斗の言葉はポジティブで力強かった。

上写真=平日の夜にも駆けつけた多くのファン・サポーターから、選手たちは拍手をもらった(写真◎Getty Images)

■2025年6月25日 J1第15節(観衆:20,905人@U等々力)
川崎F 3-1 新潟
得点:(川)脇坂泰斗、神田奏真、大関友翔
   (新)奥村 仁

30分の象徴的シーン

「ケンカするぐらい要求し合いましょう。オレが集中切れてたら、怒鳴ってくださいね。オレも言いますから」

 左サイドバックの堀米悠斗は、その隣に立つセンターバックの稲村隼翔から、試合前にそう言われたのだと明かした。集中していて実際にそんな場面は訪れなかったというが、「それぐらい要求し合えるような熱量を、イリさん(入江徹監督)が作ってくれたと思います」。

 アルビレックス新潟は6月23日に樹森大介前監督を解任し、入江コーチを監督に昇格させた。この川崎フロンターレ戦までたった2日。新監督は心構えを問うところからチームを再起動させた。

 その初陣は1-3で終わった。再スタートの重要な一戦で勝利を手繰り寄せることはできなかった。ただ、少し不思議かもしれないが、負けてなお、監督も選手たちも確かな手応えを口にするのだった。

 堀米は「全員がそうではないと思う」と断りながらも。「僕自身は割とそういうふうにとらえています」と真っ直ぐ前を向いた。

「勝てなかったら意味がないという選手もいるかもしれないですけど、キャプテンとしてチームを引っ張っていく立場では、良かった部分はしっかりと認めて継続したい。今日できたことはしっかりと続けようよって」

 だから、「負けた試合でいつもはそんなことをすぐには言わないけれど、今回はもう次に切り替えようって話しました」と思考が無駄に重たくならなかった。

 堀米はどこに手応えを感じたのか。一つ挙げるとするならば攻撃だろう。中でも1点のビハインドで迎えた30分は象徴的だ。本人の詳しい解説を聞くと、その「手応え」の実体が感じ取れる。

 まず、左からインサイドに入って新井泰貴のパスを引き出した。

「サイドハーフとの関係もそうですし、ボランチが一つ落ちたときにできるスペースを個人的に狙おうと思っていました。あとは(ともに左利きの)稲村選手にしても新井選手にしても、左足で外をにおわせながら中に差せるので、チャンスがあればあのハーフスペースで受けたいなと思っていました」

 まさにそこで受けて前を向くと、右に小野裕二が走ったのが見えた。左足で斜めに浮き球のミドルパスを放り込む。

「いいところで受けて、フリーだったのでね。そこまではなかなか背後へのパスで勝負していなかったので、個人的に1本出してみたいという思いと、いい動き出しをしてくれたので。意図はしっかりと合っていました」

 ジェジエウと高井幸大というセンターバックの間を抜けてから落とすような絶妙な軌道。狙い通りだった。

「ノーバウンドというよりは、ちょっと巻いてキーパーが出られないようなところに、と。ちょっと奥に行きすぎたかなと思いましたけど」

 それでもうまく回り込んだ小野裕二が右足のボレーで狙い、しかし、惜しくも左ポストをたたいた。

 左サイドでは堀米の他に左サイドハーフの谷口海斗、左ボランチの星雄次、5月3日以来の出場となったFWの小野裕二、今季2度目の先発となったトップ下の高木善朗がお互いを、そして相手を見ながらポジションをローテーションさせ、さらに微調整を重ねて崩しにかかった。

 これなのだ。昨年まではこれが自慢だったのだ。監督が変わったからといって、新しい何かをたったの2日で付け加えるのは難しい。でも、昨年までに積み上げてきたストロングポイントはまだちゃんと隠し持っていた。つまり、それを「開放」したのだ。

「メンバー的にも割と去年のメンバーに近いので自然とそうなった部分と、チームとしてどうというよりは、稲村選手との関係性、どれぐらいの角度だったら左足のパスの精度で解決できるかというのは見ながらやっていました」

「前半は相手のベンチの目の前だったので、長谷部(茂利)監督がすごく指示を出してかなり修正をかけていて、封じてきているなとは思ってましたけど。ただ、そのことで伊藤(達哉)選手が引いて稲村選手に時間はできたので、ダニーロ(ゴメス)へのサイドチェンジも試合を通して出せていました。その2択を相手に迫ることができたのは良かったかな」

 堀米たちが左サイドの高い位置で時間を作れば、サイドハーフの伊藤のプレーポジションを低く押し込むことができる。そうすれば、稲村がプレスを受けずに余裕を持って武器である左足のキックを繰り出せる。単に自分が前に出て崩すためだけではなく、最終ラインでのバリエーションも確保する意図があったことが分かる。

 だからなおさら、前半のうちから決めたかった。30分の小野のボレーが見事だったからこそ「あれが入ってたらまた違う展開になってたかな」と悔やんだ。まさにそこが最大の反省点。

「1本で決めろっていうのも難しい。もっと回数を増やしてあげないと。あの質のボールを何本出せるかというところが、サイドバックに求められる部分。その精度と向き合わなければならない」

 それが自分への矢印。チームとしても「最後のところ」が問題だと突きつける。

「足りないところはどこだったかといえば、やっぱり両ゴール前の質。守備だったらシュートをしっかりと足に当ててブロックしなきゃいけないし、攻撃は中に通すところまではできたので、後ろに落とすのか、自分でトラップして前を向くのか、その質にこだわらなきゃいけない」

 勝ったわけではないから反省は尽きないが、それでも前を向けるのは、チームが上向くための素地が整った証なのかもしれない。残り17試合。逆襲はなるか。