勝利のポイントはカウンタープレスをかい潜れるかどうか
FC東京のDF岡哲平(左)とMF安斎颯馬(写真◎J.LEAGUE)
ゲームの図式を占えば、少なくとも前半は『湘南が攻め、東京が守る』時間が長くなりそうだ。それというのも、東京は開幕からの4試合のうち、3試合は3バックのチームが相手。さらにボール保持率を見ると、横浜FC戦とFC町田ゼルビア戦はほぼ互角で、名古屋グランパス戦では41%と、相手のそれを大きく下回った。
いずれも鋭い速攻を武器とする相手に長くボールを持たれる展開だったわけだ。ある意味、相手を苦手な展開に追い込んだ――とも言えるが、果たして、意図したものだったかどうか。実際、名古屋戦後の記者会見で松橋力蔵監督は「我々の望んだ試合内容ではない」と話している。
ならば、望むような展開にならなかった理由はどこにあったか。一つは相手のマンツーマン気味のプレスに苦しみ、ビルドアップが思うように機能しなかったこと。もう一つはミドルゾーンで構えて守ったぶん、相手ボールの回収に時間がかかり、結果として自分たちのポゼッションが削られたことが要因として挙げられる。従って、これらの課題をクリアする手立てがないと、湘南戦も同様の展開に陥る恐れがあるわけだ。
しかも、厄介なことに湘南は相手側の立ち位置に応じたプレスの仕方を心得ており、巧みな『規制と誘導』によって攻撃側をタッチライン沿いに追いやり、素早い囲い込みから一気に仕留めるエキスパートだ。果たして、蹴るべきか、つなぐべきか。絶えずリスクを計算しながら攻撃の手立てを探る必要がありそうだ。3バックをヘルプするダブル・ピボットは言うに及ばず、最後尾からビルドアップに絡み、貴重な《+1》となるGK野澤大志ブランドンの働きもポイントになるだろう。
あとは湘南のビルドアップに対して前線から果敢にプレスを試みるのかどうか。従来どおりにミドルブロックから勝機を探るなら、中盤でうまく引っかけ、マルセロ・ヒアン、仲川輝人、俵積田らのアタック陣が一気に背後のスペースを突く高速カウンターアタックが本命となる。ひとたびライン裏に抜け出せば十中八九、フィニッシュに持ち込めるはずだ。カギは囲い込みの早い湘南のカウンタープレスをかいくぐれるかどうか――だろう。
さらに、選手同士の対決(一対一)で見どころになるのは、ワイドの攻防だろう。なかでも、百戦錬磨の長友がスピードスターの藤井を迎え撃つ左ワイドはこの試合きってのホットゾーンと言っていい。ただし《長友対藤井》という単純な図式になるかどうか。湘南側とすれば、藤井をオトリにして長友を釣り出し、その背後に右インサイドMFの小野瀬康介が潜り込んで鋭いクロスを狙う算段かもしれない。事実、浦和戦ではその形から何度かチャンスをつくり出している。
問題はこの小野瀬を誰が捕まえるのか。3バックの左(岡)が湘南の2トップのどちらかをマークするとなれば、ボールサイドのピボットが小野瀬を追いかけるほかない。その作業を一瞬でもためらえば、命取りになるはずだ。
先に記したとおり、対面のウイングバックをつり出し、その背後を狙う攻め手は東京にもある。その場合、一対一の構図は左シャドー対3バックの右、右シャドー対3バックの左。東京が卓越した個の力(質的優位性)を生かすなら、ここかもしれない。とりわけ、《俵積田vs鈴木雄》の攻防は見ものだろう。それでもゴールが遠いとなると、頼みの綱はセットプレーだ。湘南の総失点は3だが、うち2点がセットプレーで、数少ない死角となっている。
もっとも、何度も敵陣深く攻め込まなければ、得点につながる確率の高いコーナーキックもなかなか得られない。ミドルプレスからライン裏をえぐるカウンターアタックをどれだけ繰り出せるか。可能な限り、ボールの回収地点を高くする意識と工夫が問われるだろう。確かにビルドアップも重要だが、それ以上に前線のプレスを含む守備強度を高めることが勝利への近道かもしれない。