明治安田J1リーグではヴィッセル神戸が首位のまま、残り2試合となった。11月10日の東京ヴェルディ戦こそ追いつかれて勝ち点1にとどまったが、敗れた2位サンフレッチェ広島との差は3に開いた。天皇杯決勝も控えている中で、連覇と2冠を手にするには、主力3人の復活と吉田孝行監督の采配がカギを握りそうだ。

文◎国吉好弘

上写真=同点に追いつかれて力なくピッチをあとにする神戸の選手たち。だが、連覇と2冠の可能性はまだ十分にある(写真◎J.LEAGUE)

4-4-2と鍬先祐弥の右SB

 ヴィッセル神戸はJ1連覇を、そして天皇杯との2冠を果たせるのか――。

 11月10日、アウェーでの東京ヴェルディ戦がそのラストスパートになるか注目だった。J1で首位に立ち、優勝へ最短距離に立っていたが、7分に先制しながらも後半アディショナルタイムにオウンゴールによって同点に追い付かれ1-1のドロー、勝ち点3を取りそこねてしまった。

 幸運だったのは、1時間遅いキックオフになった2位のサンフレッチェ広島が、浦和レッズに0-3で敗れて3連敗を喫したこと。これで首位を維持したまま、勝ち点差も3に開き、残り2試合で自力で連覇を達成することができる。

 この試合は得意のセットプレーから早い時間に先制したものの、次第に東京Vに主導権を握られる苦しい展開となった。持ち前の堅守でしのいではいたが、最後にゴールをこじ開けられた格好だ。

 東京Vの城福浩監督は「我々がやろうとしている、相手陣内でサッカーをするということができた。いまもう一度対戦したら勝てる」と手ごたえ十分。中盤の森田晃樹、齋藤功佑を中心に、素早い切り替えと球際の厳しさでボールを奪い、動かすことができていた。神戸の吉田孝行監督も反省点に挙げたのが「前半の良い時間帯で先制点が取れたんですけど、その後に少しボールを持たれるシーンも多くなって、それほどうちの守備が良かったわけでもなく、相手のボランチを自由にさせてしまった」こと。中盤を支配され劣勢の時間帯が長かったと認めている。

 神戸はこの試合に臨むにあたって多くの問題を抱えていた。10月18日のJ1第34節、ホームで戦ったFC東京戦からこの日まで、天皇杯、ACLエリートも含めて24日間で6試合というハードスケジュールをこなした。この日は攻守の要であるDF酒井高徳、FW大迫勇也をベンチにも置くことができなかった。東京Vとは5月26日にホームで対戦したときにも押しながら0-1で敗れていた。これをきっかけに、東京Vが目指すサッカーの成熟度を高めて上位に食い込んできており、上り調子の相手とアウェーで戦わなければならなかった。

 そこで吉田監督は采配で対応した。本来は中盤のセンターでプレーする鍬先祐弥を、不在の酒井に代わって右サイドバックに起用。全体のシステムも通常は扇原貴宏をアンカーにインサイドハーフを2枚配置して中盤を逆三角形にする4-3-3だが、この日は扇原貴宏と井手口陽介を中盤の底に並べ、宮代大聖が佐々木大樹と2トップを組む4-4-2になることが多かった。森田、齋藤を中心にボールを握る東京Vの中盤に備えながら、大迫を欠く前線でよりボールを収めるために2人を配したということだったろう。

 この微調整にも、東京Vのインテンシティーの高さに後手を踏むことが多かった。ただ、最後の失点がなければ勝ちきれるところまで持っていったのも事実。相手に決定機と呼べるほどのチャンスを与えたのはわずかで、押し込まれても粘り強く跳ね返せるディフェンスの堅さを見せることはできた。

 ハードスケジュールの中でもFC東京戦こそ0-2で落としたが、その後はACLEの蔚山(韓国)戦はアウェーながら2-0、天皇杯準決勝の京都サンガ戦は2-1、J1第35節のジュビロ磐田戦は2-0、ACLE光州(韓国)戦も2-0と4連勝、その間の失点はわずか1と堅固だった。リーグ全体でもFC町田ゼルビア、ガンバ大阪に次ぐ失点の少なさで、安定したディフェンスはチームの屋台骨を支えている。

 攻撃に関しても、大迫がいるといないでは前線でのボールの収まりがやはり違う。吉田監督も「もう少し起点ができて、自分たちの時間ができればよかった。あるいは速攻で攻めきるのが数多くできればよかったんですけど、その回数は少なかった」と振り返っている。ロングボールを多用して前線の選手が起点となる神戸の攻撃のスタイルでは、大迫は不可欠な存在で、これに関しては日本でも有数の存在であることは改めて記すまでもないだろう。

 それでも、攻守にわたって細やかに調整を施して臨んだ東京V戦で、勝ち星を逃したものの難局を引き分けで切り抜けたことは結果として悪くなかった。この後、インターナショナルマッチウイーク(INW)で2週間のインターバルを迎えるのも好材料。酒井と大迫の欠場については吉田監督が「それほど大きなケガではないんですけど、今回の試合に出られる状況ではなかった。ギリギリのところで、間に合わなかった」と明かしていて、それが事実ならこの2週間でコンディションを戻して少なくとも残る試合には出場できるはずだ。

 光明はもう一つ、山口蛍の復帰だ。負傷で長く戦列を離れていたキャプテンが83分にピッチに登場して、7分とアディショナルタイムだけの短いプレータイムではあったが、復帰したことに意味があり、こちらもさらに状態が良くなるはずだ。

 INWが明けると神戸にはまず、11月23日にガンバ大阪との天皇杯決勝というビッグマッチが控えている。その3日後にはACLEのセントラルコースト・マリナーズ(オーストラリア)戦があり、中3日でJ1第37節でアウェーの柏レイソル戦に臨む。そして12月3日にもACLEのアウェーでの浦項(韓国)戦があり、これは中2日で長距離移動も待っている。そして8日にJ1最終節で迎えるのが、ホームでの湘南ベルマーレ戦。またもや16日間に5試合というハードスケジュールで戦わなければならない。天皇杯制覇とJ1連覇に向けて、ここが最大のヤマになる。

 酒井、山口、大迫のコンディションと吉田監督のマネジメント。それが大きなカギを握ることになりそうだ。