FC東京が横浜F・マリノスに逆転勝利を果たしたのが、9月28日の明治安田J1リーグ第32節。仲川輝人が古巣から89分にゴールを奪って、ダメ押しの3点目で勝利を決定づけた。さまざまな思いが交錯する意義深いゴールに、決めた本人も充実感たっぷりだった。

上写真=仲川輝人がゴールを決めると、仲間にもみくちゃにされながらサポーターに咆えた(写真◎J.LEAGUE)

■2024年9月28日 J1第32節(@日産ス/観衆28,601人)
横浜FM 1-3 FC東京
得点:(横)アンデルソン・ロペス
   (F)岡 哲平、俵積田晃太、仲川輝人

「チャントを歌ってくれたから」

 2-1と逆転して迎えた終盤、ダメ押しの3点目を決めたのは仲川輝人だった。古巣を相手に、かつてのホームスタジアムで、勝利を決定づける一発。

「いや、でも前半にも他の選手に決定機はあったし、それに僕が決めていればよかった」

 第一声がこれだった。確かに1-1で迎えた36分に仲川がカウンターで右から抜け出したシーンで、左足で狙ったシュートはゴールの左に切れていった。

 先制されたことにも、厳しい意見を自分たちに浴びせる。開始5分で中央を破られてアンデルソン・ロペスに決められている。

「いや、正直ダメでしょ。先制されるのは本当に。レッズ戦でも最初の10分ぐらいはピンチだったし。今日は勝ててよかったけど、先制点を取られるのは良くないです。そこは改善しないといけない」

 蟻の一穴をも許さない姿勢を強調した。

 その上で、自らのゴールはもちろんうれしいに決まっている。セレブレーションを見れば明らかだ。

「ちょっとどうしようか迷ったんですけど、FC東京の側のゴールだったので、軽く喜びました。(波多野)豪のノリでやりました」

 両手を広げて仲間と抱き合い、そのまま目の前のサポーターに向かって咆えた。キックオフして最初に彼らが歌ったのが、古巣に立ち向かう仲川のチャントだった。「試合前から僕と(同じ横浜FM出身の遠藤)渓太のチャントを歌ってくれていたから」と、その返礼でもあった。

 そのゴールはスピーディーだった。89分に右サイドバックの中村帆高がインターセプトして持ち運び、右へ。野澤零温が受けてDFとGKの間にスピードボールを食い込ませ、猛然と走り込んでいた仲川が左足でねじ込んだ。

「やっと実ったかな。やってきた形というか、あそこにやっとボールが出てきたっていう感じです。零温のボールも素晴らしかった」

 繰り返しトレーニングしてきて、周りに要求してきて、それが見事に実を結んだ。この成功体験が、チームを強くする。そして、交代で出場した2人がお膳立てしたことも、チーム力を底上げする意味で大きい。

「交代選手が頑張って、相手が前がかりになってシステムを変更してきたところ守備の仕方も選手同士で話し合ってやった結果、いい守備からいい攻撃になりましたね」

 守備から攻撃の連続性、トレーニングの結実と、右肩上がりのチーム状態を象徴するようなエッセンスが詰まった、意義深いゴールになった。

 もう一つ特筆したいのが、仲川自身のフィニッシュの技術だ。右から来たボールを、近い方の右足ではなく、遠い方の左足に引き込んでからシュートを放った。ぎりぎりの瞬間に、ほんのわずかだが相手のタイミングを狂わせるテクニック。

「そこしかないと思って、あそこに出してくれっていう感覚でいましたし、しっかりキーパーの位置を見て、右で合わせるよりは左で体を開きながら打った方が確率は高かったと思ったんで」

 確かに右足で狙ったら、一歩前に出たGKポープ・ウィリアムのファインセーブになっただろう。そこを予測して飛び出してきたからで、その動きを冷静に見切って、GKの体の前でボールを横に通過させることでシュートコースを生み出す抜群の判断と技術には、ため息が漏れる。

 これがJ1で199試合目の出場だった。次はホームにサガン鳥栖を迎える。味の素スタジアムではここ3試合、時間にして3カ月も勝ちに見放されている。区切りの200試合目で味スタ勝利へ、その誓いは「また決められるように準備して、チームが勝てるように頑張っていきたいです」と決然としていた。