これはきっかけの1勝になるか。横浜F・マリノスがハリー・キューウェル監督との契約を解除して臨んだ7月20日の明治安田J1リーグ第24節。首位のFC町田ゼルビアを相手に2-1で逃げ切った。指揮を執ったジョン・ハッチンソン監督が与えた「自由」で甦り、渡辺皓太は「笑顔」を取り戻した。

上写真=横浜FMはハリー・キューウェル監督との契約を解除して難しい時間を過ごしたが、素晴らしい勝利で乗り越えた(写真◎J.LEAGUE)

■2024年7月20日 J1リーグ第24節(@国立/観衆46,401人)
町田 1-2 横浜FM
得点:(町)ミッチェル・デューク
   (横)アンデルソン・ロペス、天野 純

「私も見ていて楽しい」

 7月15日にハリー・キューウェル監督との契約解除が発表されてから、わずか5日。横浜F・マリノスが失いかけていた代名詞の「アタッキング・フットボール」で、首位のFC町田ゼルビアを2-1で破った。暫定的に指揮を執ったジョン・ハッチンソン監督は、選手たちにどんな「魔法」を使ったのか。

「特別なことというより、自由度を与えたのです」

 ピッチに立つ選手の発想を生かす、というのがその答えだ。もともと「アタッキング・フットボール」の素養があるからこそ集まったメンバーである。それをいかにピッチに気持ちよく描けるようにするか、に焦点を置いた。

「動き出しのときに考えすぎずに、自由度を高めることでお互いを見ながらポジションを取ることができるということは言ってきました」

「スペースを作り出してスペースを使う、その連続です。その連動性が大事だし、早くボールを動かすこともそうで、少ないタッチ数で人とボールが動くことを強調しました。私も見ていて楽しいサッカーでした」

 賛辞は尽きない。

 2点目がその象徴だ。43分、一度相手を深く押し込んでから中盤の中央にできた広大なスペースでフリーになっていた渡辺皓太が、右のヤン・マテウスからボールを引き出した。すぐに左のエウベルへ送ると、その内側から左ポケットに潜り込んだ加藤蓮へと、こちらも素早いタイミングで入れた。加藤もワンタッチでセンタリングを送ると、これが相手のお見合いを誘うようにして逆サイドまで届けられ、フリーで入ってきた天野純ががら空きのゴールに流し込んだ。

「ボールも人も動いて、やっていて楽しかったです」と実感を込めてピッチの上での出来事を振り返るのは、渡辺皓太である。

ダブルボランチ、というよりは

 今季は基本的にアンカーを置いた逆三角形のミッドフィールドで戦ってきたが、これが必ずしもうまくいっていたわけではなかった。AFCチャンピオンズリーグで決勝にまで進出したこともあって過密日程になり、どうしても重心がふらつくような戦いになって、J1では調子の波が大きかった。

 そこでこの試合では、ボランチに喜田拓也と渡辺が並んでトップ下に天野が入る正三角形をベースにしていたように見えた。渡辺はその見立てに少し「解説」を加える。

「ダブルボランチというか、相手を見ながら必要なときにサポートに行くという形を取りました」

 つまり、固定されたポジショニングではまったくなくて、極めて流動的。ハッチンソン監督が与えた自由を、選手たちが謳歌した結果だ。

「そこは中盤の3人で考えてやっていて、ビルドアップで2人必要なら助けにいきますし、押し込めていると思えば前に出て行く。そこは相手を見ながらサッカーができたのかなと思います」

 攻撃に出るときには喜田か渡辺のどちらかが中盤の中央に残り、もう一方がインサイドハーフのように前にポジションを取った。あるいは2人が並んで相手のプレスをいなしてビルドアップした。どちらかが、攻めに出たサイドバックのサポートに回るようにサイドにフタをしたこともあった。そんな気の利いた柔軟なプレーができるのは、このチームの本来の持ち味である。渡辺が「相手を見ながら」と説明したのはそういう意味だ。

 その立ち位置の基準も、相手を見ながら。

「単純に相手が困るような立ち位置を取ることを意識しました。どこなら相手が嫌がるか、そして止まらずに常に動きを出しながらプレーできたので、うまくいったかなと」

 ただ、反省もある。後半には押し込まれたことだ。

「単純に自分たちの運動量が落ちてしまったのと、相手が守り方を変えてきてマンツーマンで出てきたときにどれだけ焦らずにチーム全員ができるか。1枚はがせれば問題ないのに、そこで慌ててしまったりしたので。あとは暑さもありましたし、相手のロングボールに苦しめられたという感じもあります。だから、(前半の戦いを)どれだけ続けられるかだと思います」

 それでも、忘れた歌を思い出してのびのびと歌ったような、大きな手応えを得た勝利であることには違いない。それを渡辺はこんなふうに表現するのだった。

「やっぱり自分たちが楽しむこと、笑顔でサッカーすること、そういう原点に戻って、マリノスらしいサッカーができたのだと思います」