7月6日の明治安田J1リーグ第22節で、湘南ベルマーレがシーソーゲームを制して浦和レッズからアウェーで大逆転勝利をもぎ取った。立役者の一人が、1ゴール1アシストの田中聡だ。ピッチの中央に立って、「3-3-2-2」とも言える難しいシステムの舵取りを任される男の「本音」とは。

上写真=田中聡が先制ゴールを決めてこの笑顔。大逆転をもぎ取った3点目もアシストした(写真◎J.LEAGUE)

■2024年7月6日 J1リーグ第22節(@浦和駒場/観衆16,787人)
浦和 2-3 湘南
得点:(浦)チアゴ・サンタナ2
   (湘)田中聡、石井久継、ルキアン

パスではなく

「あれはシュートだったんです。自分では打ったつもりだったんですけど」

 湘南ベルマーレで中盤のセンターに君臨する田中聡が照れくさそうに笑ったのは、大逆転勝利をもぎ取る3点目をアシストしたシーンのことだ。

 90+2分、右から福田翔生のパスを受けて時計回りにターン、前を向いて自慢の左足で送ったのは絶妙なパスのように見えたのだが、本人が狙ったのはシュート。それが短く前に転がる格好になって、受けたルキアンが冷静にゴールへと流し込んだ。

 試合を最初に動かしたのも田中だ。32分、山田直輝のパスで左前に抜け出すと、左足できっちりインパクト。力のあるボールが対角に飛んでゴール右に突き刺さった。

「思いっきり振りきったんで、そんなには…」とコースをしっかり見たというよりは、インパクトの強さを心がけたことが功を奏した。

 劣勢の中の先制ゴール、という意味でももちろん重要だったが、その直前からの一連のアクションが、してやったりだった。

 左サイドの奥で浦和にボールが渡ってしまったものの、田中は迷いなく猛然とそのエリアに寄せていった。畑大雅、山田直輝と3人でそのエリアに圧をかけ、ミスを誘った。「あそこでつないでくるから」と浦和の癖を見抜いていた。

 ボールを再び自分たちのものにすると、そこからさらに足を止めなかった。この当たり前に見えるけれどとても大切なことが、ゴールに直結した。

「ボールが来そうだったので走り込んで、うまく決められた感じでした」

 そんな「予感」が足を動かして裏に抜けたというのだが、このアクションを無意識のレベルにまで昇華させたからでもあった。まさにプレスがはまったときの快感である。

 迷いなく前に出て、さらにそのままもう一つ前進したことを、田中は「ダイレクトプレス」という言葉で表現する。

「ダイレクトプレスというか、そこは湘南では監督からすごく言われてることなので、普段の練習が生きてきました。そういうところをやっていかないと湘南は勝てないと思うので、これをスタンダードにしていきたいです」

 パリ・オリンピックのメンバーには選ばれなかった。「本当に行きたかったですけど、現実を見たら発表前からたぶん入らないだろうな、と思っていて」とクールを装った。でも、「いざ選ばれなかったらすごく悔しかったし、今日は相手に(メンバー入りした大畑)歩夢くんもいて、絶対負けたくないなと思いました」が本音だ。

「オリンピックに行く選手よりも先にフル代表に入りたい。それにはもっとアピールしないといけないと思ってるんで」

 次の目標はもう目の前にある。