川崎フロンターレが日本一の栄冠をつかむか。12月9日の天皇杯決勝で柏レイソルと対戦するのを前に、J1ラストマッチではサガン鳥栖に1-0で勝利を収めた。そこで鬼木達監督が改めて口にしたのは、鉄の意志だった。

上写真=鬼木達監督は鳥栖戦で我慢強く戦った選手たちに成長のあとを見た(写真◎J.LEAGUE)

「我慢が順番の最初ではなくて」

 2023年、川崎フロンターレのJ1リーグは、勝利で幕を閉じた。12月3日のサガン鳥栖戦、87分に決まったオウンゴールで先制し、そのまま辛くも逃げ切っている。

「ラッキーな点ではあるかもしれませんけど」と鬼木達監督。瀬古樹が蹴った左CKが相手に当たってそのままゴールに飛び込む決勝弾のことだ。確かに運が味方した。鬼木監督は続ける。

「ただ、あれもいくつか圧力をかけ続けた結果でああいう形になったシーンだったと思います。やはりこれからも攻撃的に戦って、しっかりと勝ち続けたいなと、そういう思いです」

 CKは、瀬古がゴール左上を鋭く狙った直接FKがGK朴一圭の鮮やかな横っ飛びで惜しくも弾かれて得たもので、そのFKは、自陣からつないでプレスをかいくぐりながら左サイドを運んで瀬古が倒されて得たもの。そうやって押し込んで押し込んで、押し込んだ結果につかんだ決勝点だった。

 これで公式戦10戦負けなし、8勝2分けとシーズン終盤に勝ち癖が戻ってきた。その意味で、苦しみながらも我慢して、最後に勝利をもぎ取った鳥栖戦は、この1年を象徴しているかもしれない。

 そんなシーズンに、鬼木監督は何を見たのか。時計の針を巻き戻して明かしていく。

「開幕当初からケガ人が出ていて、継続的にやりたい部分があり、勝利に結びつけなくてはいけない部分もあって、多少難しさはありました。今年は若手の育成などいろんなものを掲げた中で、最後もケガ人が出て人数が足りなくなってきても、若い選手たちがチームを盛り上げてくれました」

 この日も宮代大聖、遠野大弥、橘田健人が先発し、山田新が途中出場でパワーを加えた。シーズンを通して見れば、高井幸大、佐々木旭、田邉秀斗、松長根悠仁らも出番を得た。

 一方で、1年を総じて形容するのに、「我慢」という言葉も使っている。

「その過程があったからこそ、我慢強く戦うところと、自分たちのやるべき攻撃的なスタイルを、多少勝てない時期があってもみんなが追い求めくれました」

 ただ、選手に伝えてきたのは、「我慢しろ」ではないのだという。

「どういう形になれば自分たちが楽なのか。それを考えたら、やっぱり自分たちがアグレッシブに戦ったときにはマイボールになるんです。我慢が順番の最初ではなくて、 自分たちが圧倒しにいくという順番を持ちながら行動をするべきです」

 選手の入れ替えがあっても、ケガ人が相次いでも、そこだけは変えないと決意する鉄の意志があったから、最後にタイトル獲得のチャンスが巡ってくるのだろう。

 いま、このチームは「足りない部分はクオリティー」というレベルまで、もう一度はい上がってきた。仕上げは、12月9日、柏レイソルとの天皇杯決勝で実行する。

「1年間、そんな苦しさもあったかもしれないですけど、とにかくそれを最後に全部ぶつけていきたい」

 この大会で3年ぶりに輝くカップを掲げることができれば、鉄の意志は再び特別な光を得る。