8月26日の明治安田生命J1リーグ第25節、横浜ダービーは横浜FCが横浜F・マリノスから4-1の逆転勝利を奪った。見事にカウンターがはまって今季1試合最多の4ゴールを奪ったが、その手綱を握ったのが、冷静さが人の形をして走るかのような井上潮音だった。

上写真=スーパーゴールを決めた林幸多郎を祝福する井上潮音(左)の笑顔が最高(写真◎J.LEAGUE)

■2023年8月26日 明治安田生命J1リーグ第25節(@三ツ沢/観衆13,321人)
横浜FC 4-1 横浜FM
得点:(C)林幸多郎、伊藤翔、オウンゴール、吉野恭平
   (M)アンデルソン・ロペス

「4点も入るとは思ってなかったですけど」

「勝てるんじゃないかな」

 井上潮音の予感は、最高の形で的中した。

「いまの戦い方だと、マリノスさんとやる上ですごく相性がいいな、と」

 林幸多郎が「ゾーンに入った感じでした」と明かしたミラクルなミドルボレーを決めて1-1の同点にすれば、「ダービーでとにかく勝ちたいという選手やサポーターの皆さんの思いが乗った」と伊藤翔が自らの豪快な逆転ボレー弾を喜んだ。さらに、オウンゴールと吉野恭平のダメ押し点で4-1だ。

「4点も入るとは思ってなかったですけど、いまチームとしてやってきたことが出たかな」

 中盤で落ち着いて試合をコントロールした90分をそう振り返った井上が、ヒーローたちの輝きを喜んだ。

 四方田修平監督は試合後に、選手たちがどんどんボールを奪いに出る姿勢をこう説明している。

「私が考えていた以上に高い位置からプレッシャーを掛けて、タイミングさえ合えば問題ないと考えていましたが、ここまで多い回数でトライできるとは思っていなかった」

 横浜F・マリノスの強烈な攻撃に対して、しっかりと引いて守るところと果敢に前に出るバランスを重視していたが、後者の比率が高まっていたことに驚きを隠さなかった。

 もちろん、前に出ていってもひっくり返されればピンチになる。実際に前半は横浜FMが右のエウベル、左の宮市亮とウイングの快足を生かしてチャンスを作っていた。横浜FCはその難しさにどう向き合うか。そこで、井上の出番である。

「相手のボランチのところについていくのも大事ですけど、それよりは、アンデルソン・ロペス選手に入ったところのあとを、僕とユーリ(ララ)でうまく対応できたかなと思います」

 全体が前がかりになると、背中側に危険なスペースを作ることになる。だから、相手のボランチが散らしてくるところのチェックは前線の3人に任せ、井上とユーリ・ララは中盤の中央に立って、横浜FMが最前線のアンデルソン・ロペスに差し込んでくるパスとそのセカンドアクションに最大の注意を払っていた。リスクをかけながらも巧みに軽減させてカウンターを仕掛けることができたのは、それが大きな理由の一つだった。

「でも、これは偶然じゃなくて、みんな練習から意識高くやってましたし、それが出た結果だと思います」

 最高の勝利のあとも、喧騒をよそに、興奮のかけらも見せずに静かに淡々と分析する。それは試合中でも同じ。だから、誰よりもクールに試合をコントロールすることができるのである。