家族に捧げる強烈ミドルだ。8月19日の明治安田生命J1リーグ第24節で、横浜F・マリノスがFC東京を2-1で下して首位に返り咲き。勝利に導いたのは、渡辺皓太のパワーミドルだった。愛する家族の前で、最高のパパの姿を見せた。

上写真=渡辺皓太(左から2人目)を中心に、勝利の喜びが笑顔に表れる(写真◎J.LEAGUE)

■2023年8月19日 明治安田生命J1リーグ第24節(@日産ス/観衆33,701人)
横浜FM 2-1 FC東京
得点:(横)永戸勝也、渡辺皓太
   (F)ディエゴ・オリヴェイラ

「やっぱりゴールって気持ちいいですね」

 あ、寄せてこない。

 そう感じた瞬間、一切の迷いなくシュートを選択したのだという。90+1分、左の井上健太からの横パスを中央で受けると、ゴールまで20メートル以上はあったが、右足を鋭く振った。勢いを得たボールは、そのままゴール左に一直線。

「迷わず振り抜いて入って良かったです。今日は特にセレモニーもあって、いつも以上に決めてやろうという気持ちで、入ってよかった」

 試合前にJ1通算100試合出場の記念セレモニーを行って、妻と幼い子どもたちから祝福を受けた。家族には「今日は決めるよ」と宣言していたのだという。それを、土壇場で実行した。家族に捧げるゴールで、勝ち点3、そして首位の座を手に入れた。

 ゴールのあとはそのまま目の前のスタンドに陣取るサポーターの元へ。いつも控えめで物静かな男が、喜びに身を委ねて看板を飛び越えていく軽やかさといったら!

「やったことなかったんですけど、自然となるんだな、って。特に意識していなかったですけど、やっぱりゴールって気持ちいいですね」

「本当にマリノスというチームが好きで、このチームのために全力を尽くしたいと思って毎週やっていますし、その中でサポーターが喜んでくれる姿を見たら、もっと頑張らないといけないと思えます。今日やっと結果に結びついて、それをサポーターの前で見せられたのはよかったです」

 そして、ゴールセレブレーションでボールをお腹でユニフォームの下に隠した。誕生を待つ第3子のためのパフォーマンスだ。

「ずっとやりたかったので、やっとできて良かった」

 はにかみながら、「かっこいいパパ」を表現できたことを素直に喜んだ。

 ただ、FC東京に苦しめられたのは事実だ。12分に先制しながら23分に追いつかれている。そのままスコアは動かず、むしろビッグチャンスは相手の方が多かった。

「失い方が悪くて、そのままカウンター、というパターンが多かったので、しっかり落ち着かせたかった。この前の試合から攻撃に厚みを持たせたいと思って、より前の部分でもっと関わりたいなと思っていたんです」

 そんな難しい時間帯に決めた、鮮烈な一撃。 

「それが、最後のあの時間帯で結果に結びついてよかった」

 ヴィッセル神戸が引き分けたため、首位の座をようやく取り返した。残り10試合というラストスパートが始まるタイミングで、トップに立った意味は大きい。

「今日のような苦しい試合が続くと思うんですけど、1試合1試合、相手に集中して、1日1日、しっかり準備して、最後に優勝できたらなと思っています」

 このまま突っ走って連覇達成となれば、熱帯夜に生まれたこの劇的なゴールがそのストーリーの中で大きな意味を持つことだろう。