4月29日のJ1第10節、FC東京対アルビレックス新潟の一戦は、アルベル監督が関わったクラブ同士の対戦だった。結果は東京が2-1で新潟を突き放して勝利。東京の渡邊凌磨にとっても、新潟はかつて在籍した古巣だ。その戦いに仕掛けた、巧みな罠があった。

上写真=渡邊凌磨は自由なポジショニングでチームを円滑に回す(写真◎J.LEAGUE)

■2023年4月29日 明治安田生命J1リーグ第10節(@味スタ/観衆32,181人)
FC東京 2-1 新潟
得点:(F)仲川輝人、ディエゴ・オリヴェイラ
   (新)伊藤涼太郎

「自由に動いていいと」

 FC東京のアタッカー、渡邊凌磨にとって、アルビレックス新潟は古巣だ。プロキャリアをスタートさせたドイツから戻って、最初に加わったJリーグのクラブ。当時はJ2で、2年プレーしたあとに同じJ2のモンテディオ山形で成長し、FC東京に引き抜かれて迎えた3年目に、J1の舞台で相見えた。

 実際に対戦してみて、「新潟から東京に移籍してきたわけではないので、 元々いたチームではあったけど、思ったよりは普通でした」が率直な感想。余分な感情に引きずられないその平常心が、二つのゴールを生み出したのかもしれない。

 序盤から新潟がボールを支配する中、押し込まれながらも奪ってカウンターがスタート。仲川輝人が自陣でターンしたところでサポートに入って受け、藤原奏哉をかわすと、迷いなく前へと持ち運ぶ。左からディエゴ・オリヴェイラ、右から仲川が自慢のスピードで走り込んでくる。

 渡邊が選んだのは、仲川。

「最初に見えたのはディエゴです。でも、相手の左のセンターバック(千葉和彦)が内側を向いたから、テルくんを選びました」

 ディエゴ・オリヴェイラ、仲川、千葉、ボールと少なくとも4つの状況を同時に見極めて選んだラストパス。千葉が内側を向いてできた外側のコースに走った仲川に預けると、対応する千葉は慌てて反転して足を広げることになる。仲川は右足を振って、その開いた股下を通してゴール左に送り込んだ。8分の先制ゴールは、こうして生まれた。

 DFの体の向きを判断の基準にできたのは、「仕込み」があったから。

「相手のディフェンスの体の向きを変えるようなドリブルを意識したんです」

 最初に仲川からもらって突き進むコース取りに工夫をこらした。まっすぐゴールに向かうというよりも、ほんの少しだけ左に向かうようなラインを取ったことで相手も斜めに走らせ、角度を生み出し、体の向きが変わるように誘い込んだというわけだ。巧みな罠である。

 4分後に同点とされながら突き放した34分の決勝点も、きっかけは渡邊だ。ボールの動きが鈍いと見るや、右サイドバックの位置にまで下がって受け、仲川に縦パスを当て、落としてもらったボールをワンタッチでさらに縦の安部柊斗へ。テンポよく前後に動かすことでサイドを破った。安部が抜け出したあとにマイナスに折り返すと、ディエゴ・オリヴェイラが豪快にゴール右のトップコーナーにねじ込んだ。シュート力がすさまじかったのは確かだが、そこに至るまでのパスワークの中心に渡邊がいた。

 キックオフの時点でのポジションは左ウイングでありながら、事実上のフリーマン。アルベル監督からは「自由に動いていいと言われています」と全幅の信頼を得て、生き生きと駆ける。リズムの中心になる秘訣は?

「どこが大変そうか見つけながらやってる感じですね」

 見ているのは、相手の嫌がるスペースだけではなくて、放っておくと味方の穴になるかもしれない危険地帯。2点目で右サイドバックの位置にいたのは、その典型だ。それをかぎ分けて助けるセンスこそが、この背番号11の一番の持ち味かもしれない。