Jリーグ30周年となる2023シーズンがいよいよ開幕する。サッカーマガジンWEBでは、開幕特集として「2023年に注目すべき23人」を紹介。22人目は横浜F・マリノスに3年ぶりに復帰したGK飯倉大樹だ。2月に入ってからオファーを受けて加入した守護神はクラブのために全てを注ぐと誓う(22人目/23人)

上写真=練習場で取材に応じる飯倉大樹(写真◎舩木渉)

取材◎舩木渉

とにかくチームがいい方向へいくように

 横浜F・マリノスに頼もしいベテランが帰ってきた。

 新シーズン開幕を目前に控えた2月上旬にGK高丘陽平の海外移籍が濃厚となり、その穴を埋めるべく緊急で獲得したのは昨季限りでヴィッセル神戸を退団していたGK飯倉大樹だった。3年半ぶりにトリコロールのエンブレムを胸に戦う守護神は、「マリノスでもう一度やれたらいいなと、ずっと心のどこかで思っていた」と感慨にふける。

「仲間であり家族 飯倉大樹の帰りを待ってるぜ」

 2019年夏に神戸移籍が決まった直後、ファン・サポーターは飯倉との再会を願う横断幕を日産スタジアムのゴール裏に掲げた。同じものが昨季最終節、ノエビアスタジアム神戸のアウェイ側スタンドに掲示されて物議を醸したが、それほどまでに帰還を心待ちにしていたマリノスファミリーの思いは実った。全ては巡り合わせだった。

「今だから言えるけど、正直マリノス以外は考えていなかったくらいだった。(無所属のまま)2月に入ったし、もう引退しようかと本当に思っていたから。待っていたら、運良くオファーを出してくれた。持っているとしか言いようがない。言葉ではうまく説明できないくらいラッキーだったと本当に思うから、この時間を大切に過ごしたい」

 今年で37歳になる飯倉は、愛するマリノスを成長させるために自分の全てを捧げる覚悟でいる。神戸での3年半を経て、「ベテラン」としての役割への意識も大きく変化した。

 もちろん「俺が試合に出て結果を残すことも大事」と定位置奪取への野心はある。一方で「オビ(・パウエル・オビンナ)や(白坂)楓馬、田川(知樹)が成長して、このチームで試合に出ることが一番」というクラブの将来を見据えた考えもある。自分がGKチームの競争に食い込んでいくことによって危機感を煽り、後輩たちの「ケツを叩いてやるのが俺の仕事」と自覚するようになった。そして、ピッチを飛び出してのチャレンジにもこれまで以上に意欲的だ。

「若い選手が多いし、メンタル面でも技術面でも、全ての経験を彼らの成長に還元したい。今までマリノスであまりしてこなかったサッカー以外のことも、クラブと協力してできたらいいなと思っているし、ファン・サポーターともいろいろなことをやっていきたい。とにかくチームがいい方向へいくように頑張るだけかな」

 チームメイトたちも飯倉の復帰を歓迎している。かつて共に戦ったDF松原健は「ロッカールームがちょっとうるさくなったけど、精神的支柱が帰ってきたことでチームにまた太い幹ができると思う。帰ってきてくれて本当に嬉しい」と語る。その表情からは喜びがにじみ出ていた。

 たとえ出番が限られようとも、ピッチ内外で飯倉の存在感は日増しに大きくなっていくだろう。マリノスがJリーグ連覇を目指すにあたって、酸いも甘いも噛み分けた守護神の復帰は単なる緊急補強以上の意味を持ちそうだ。