Jリーグ30周年となる2023シーズンがいよいよ開幕する。サッカーマガジンWEBでは、開幕特集として「2023年に注目すべき23人」を紹介していく。アルビレックス新潟からは、就任1年目でJ2優勝、J1昇格に導いた松橋力蔵監督だ。その優れたマネジメントで強いチームにまとめ上げて、J1での戦いに謙虚だが「ふてぶてしく」挑んでいく。

ふてぶてしさはあるか

松橋力蔵監督は就任1年目でJ2優勝とJ1昇格を決め、「新潟超最高!」と叫んだ(写真◎小山真司)

−−監督として初めてのJ1ということで、やはりご自身にもはやる気持ちはありますか。

松橋監督 いま日本に18人しかJ1の監督がいない中で、私がその1人としてその場に立たせていただけることについて、本当に感謝しかありません。監督となって2年目でここにいられるのは、多くのみなさんのおかげですから。

 その一方で、自分の中では緊張しているとか、「ようし、やってやろう!」という気負いのようなものはあまりないんです。もしかしてどこかでそういうプレッシャーを避けて通ろうとしているのかもしれないし、あるいは単純に鈍感なのか(笑)。でも、自分自身の性格はよくわかっているので、自分でその場で感じ取って対応しようとすることが、やっぱりベストなんだと思っているからかもしれません。

−−監督は横浜F・マリノスで選手、コーチとしての経験が深く、ついにトップリーグで古巣と戦うことができます。選手時代にプレーしたニッパツ三ツ沢球技場には、今年も横浜FC戦のために乗り込むことができます。

松橋監督 自分がプレーヤーとして、指導者として育てていただいたクラブや場所ですから、もちろん思いはありますね。ただ、相手が古巣だとか場所が思い出のスタジアムだから、という意味での余計な感情は本当にないんですよ。「勝って恩返しを」という言葉は自分の中にあまりなくて、恩返しなら勝たせてあげる方がいいだろって思っちゃいます(笑)。

 ただ、やはり育てていただいたクラブを相手に戦えるところに自分が立てることに、本当に感謝でいっぱいなんです。横浜FMが快く送り出してくれて、新潟が受け入れてくれて、そして選手が頑張って、まだまだ駆け出しの私を持ち上げてくれましたから。

 もちろん、10年ぐらい経験したら私にもふてぶてしさが出てくるのかもしれませんけど(笑)、まだそこまでいっていないですから。

−−ふてぶてしさも「究極」のエッセンスかもしれませんね。

松橋監督 もちろん、多少のふてぶてしさは必要です。選手にも言っているんです。謙虚であることは絶対に必要だけど、それだけでいいのか、と。「謙虚で規律があっていいチーム」 であることと、その字面に踊らされることは別の話だよ、と。

−−感情を大切にすることも、監督が説いてきたことの一つですよね。

松橋監督 感情的になることは私自身も選手のときに経験していますし、それがないのはおかしいですからね。だから、もっと出していいんだよ、と。もちろん、出して出しっぱなしではいけないけれど、というような話を選手にもずっとしています。

−−選手だけではなくて、監督自身もたぎる感情を心に宿して戦うわけですね。

松橋監督 そうですよ。そうじゃなかったら、この場に立てるわけがないですからね。本当にいい経験をさせてもらっていますけど、それだけで勤まる仕事ではないですから。ふてぶてしさを持っていないわけはないですし、今シーズン、どこかでそういう感情が必要になってくると感じています。それを必要に応じて出せるように、うまくコントロールできるような監督になっていきたいですね。

まつはし・りきぞう
1968年8月22日生まれ、54歳。千葉県出身。現役時代は日産ファーム、日産自動車、横浜マリノス、京都パープルサンガなどでプレー。横浜F・マリノスのアカデミーコーチ、トップチームコーチを経て、2021年にアルビレックス新潟でコーチに、22年に監督に就任すると、選手の個性を引き出すチーム作りでJ2で優勝、6年ぶりのJ1昇格に導いた。