ゆっくりというスピード
−−冒頭で、昨季からの積み上げの部分についてまず「スピード感」に言及していたことが響きました。精緻な技術と正しい判断を持ち合わせるこのチームが、J1の速さになじめば面白いことになるのではないか、という期待が高まります。
松橋監督 そうですね。そして、スピードは必ずしもすべて速くすべきという意味ではありません。的確であること、使い方を間違えないこと、です。ゆっくりすることが必要だと思うんですよ。例えば、2対1の状況を作って攻めたいときに、1対1の場面からもう1人の味方が追いついてこないのに、ボールを持つ自分だけがスピードを上げたら、結局2対1になりません。ゆっくり逃げておいて、相手が食らいついてきたら仲間を先に出してあげればいい。あるいは味方が追いついてきたところで、一緒にスピードを上げればいい。やっぱり使い分けだと思うんです。
−−物理的な速さのことだけを言えば、例えばスピード自慢の太田修介選手を獲得したことが進化のきっかけの一つになりそうですね。
松橋監督 そうですね。彼の特徴はスピードが強調されるプレーです。これまでは、チームとして本当にゴールに直結するようなところに、目が向いていないわけではないけれど、もっと徹底しなければならないところがありました。まずはゴールなんだ、ゴールを奪うために何ができるかのか、という点では、太田のようなスピードというアクションが起きれば、より高い場所にみんなの目が向くわけです。物理的なスピードで太田を生かしておいて、そこに続いていくことがコレクティブな連動性につながると思っています。
−−J2を戦いながらJ1の準備を進めた昨年は、ベーシックな部分の統一感に個性をうまく乗せた集団になった印象です。それがそのまま、J1で戦う武器になりますね。
松橋監督 そうですね。昨年、選手に言ってきたのは、J2の舞台を勝ち上がるということではなくて、ここもJ1の舞台だと思ってプレーしようということでした。だから、自分たちが到達すべきラインを遠くにして、選手にちょっと分かりづらくしたんです。そうすることで、選手はいろいろ想像するだろうと。
例えば、走行距離についての話があります。J1では実際に自分たちを上回る距離を走っているチームがある。その差が必ずしも勝敗を左右するものではないのだとしても、君たちを待ち受けているのはそういう世界なんだよ、と話してきました。もちろん、質でひっくり返すことも大切ですが、そういうことを言い続けることで選手の意識は変わっていったと思います。