Jリーグ30周年となる2023シーズンがいよいよ開幕する。サッカーマガジンWEBでは、開幕特集として「2023年に注目すべき23人」を紹介していく。アルビレックス新潟からは、就任1年目でJ2優勝、J1昇格に導いた松橋力蔵監督だ。その優れたマネジメントで強いチームにまとめ上げて、J1での戦いに謙虚だが「ふてぶてしく」挑んでいく。

上写真=松橋力蔵監督の力強い「言葉」は、J1でも注目を浴びるはず(写真◎サッカーマガジンWEB)

取材◎サッカーマガジンWEB

木村和司の言葉「サッカーは常に追求じゃ」

−−改めて、J1にお帰りなさい。J2を戦ってきた2022年から、昇格するのが目的ではなくてJ1で戦うチームになろう、と選手たちに意識づけされてきました。いよいよ実際にJ1に向かういま、思いは特別ですか。

松橋力蔵監督 新潟は久しぶりのJ1参戦で、多くの方にサポートしていただいてこの舞台に立つことができました。だから、ワクワクしている気持ちです。積み上げてきたものを進化させる1年にしたいと思っています。

−−クラブとしては6年ぶりのJ1で、監督ご自身としては初めてのJ1での指揮となります。その開幕戦の重みはどれほどのものでしょう。

松橋監督 開幕戦の意義というものに関しては、あまりそこに針を振りすぎようとは私は感じていないんです。やはり長丁場になりますし、もちろん勝利を勝ち取ることによって勢いがつくことは当然あると思いますが、まず本当に自分たちがその時々でその場に立って、そこで何ができるかだと思っています。

−−その開幕戦ではセレッソ大阪とアウェーで戦います。

松橋監督 相手の小菊昭雄監督はS級ライセンスを受講した同期で、1年弱という期間、それぞれにサッカーを追求し合ってきました。とても温厚な印象ですが、実はものすごくパッションのある方です。素晴らしい指導者ですし、セレッソというチームも素晴らしい試合を展開して注目を浴び、もちろん結果としてもカップ戦でファイナリストになるなど、常にJ1の中で存在感を示しています。我々はしっかり胸を借りるつもりで、自分たちのやってきたことを見せていきたい。もう本当に、その一点だけです。

−−このオフからキャンプへと向かう中で、ものすごく充実していたようですね。

松橋監督 いまは積み上げていく前段階ですけれど、キャンプに入るまでの選手の準備にすさまじさを感じました。意識もフィジカルの数字も、私たちが設定していたところを全部越えたんじゃないかという感じだったんです。だからこそ起伏もできたというか、つまりコンディションがとても上がっていたからこそドーンっと落ちることもあって、もちろん、すべてがずっと順調というわけではなく、でもあとは私がどうコントロールしていけばいいかと考えてきました。

−−選手たちの今年にかける強い思いが伝わってくるお話ですね。

松橋監督 スタイルを積み上げていく上では、スピード感やこれまでとの変化をどう加えるかを意識してきて、新加入選手の特徴を取り込むことで新たな形ができあがってきました。もちろん規律も大事で、でも、サッカーの醍醐味である創造性やアイディアというワクワクする部分も積み上げることができましたよ。

−−そんなふうにチームを高めていく松橋監督のマネジメント、特にその「言葉」がものすごく強い力を持った2022年でした。そしていま、J1に向かうにあたって、「究極」という単語を選手に授けたというのは興味深いストーリーのプロットです。改めてその意味を教えていただけませんか。

松橋監督 今シーズンを迎えるにあたって、選手たちとどう入っていこうかなと考えました。私たちが新潟で賞賛していただいたのは、もちろん結果もですけれど、いわゆるスタイル、自分たちが展開するサッカーそのものだと思うんです。それを実現させた個人のクオリティーこそがやはり、最後は差を生むものだと私は思っているんです。

 そんなときにふと、和司さん(木村和司=日産自動車の黄金時代を築いたMF。松橋監督が若手選手のときのスーパースター)の言葉を思い出したんですね。「サッカーは常に追求じゃ」って。私がそれを聞いたのは、1993年にJリーグが始まって、和司さんは引退も見えてきた頃だと思うんです。それでもこの人はまだうまくなろうとしているんだ、と。私たちにはまだ時間がありますから、和司さんの言う追求の先にある究極を見よう、と。

−−「究極」の真髄みたいなものはどこにありますか。

松橋監督 究極、と言っても、抽象的じゃないですか。人によっても捉え方が違うと思うんですよ。それを考えることも大事だし、その結果、やっぱり分からないなと思い至ることも大事だと思うんです。選手それぞれの究極とは一体なんなのか、それを考えていくという意味で、その単語を使いました。

−−監督の中でも、究極というものの姿が見えているわけではないのですね。

松橋監督 そうです。私も選手も探している真っ最中ですよ。その答えを見たいし、本当に見えるのかという話もあるし、でも、その道筋の中にあるとも思うんです。

−−そして、新潟の選手たちにはそれができるという思いがあるのですね。

松橋監督 アインシュタインの相対性理論を理解しろ、と言ったら、どんな人でも難しいですよね。でも、サッカー選手がこのサッカーを高みに持っていくことはできると思うんですよ。やればできるという気持ちはずっと持っていてほしいし、なぜできないかと言えば、止めているのは自分だよね、ということです。自分たちがいまサッカー選手である、ということに感謝して、実際にできることをどこまで本当にやってみせるか……というようなことをいろいろと考えた中で出てきた「究極」という言葉でした。