Jリーグ30周年のシーズンが、2月17日にいよいよ開幕する。サッカーマガジンWEBでは、Jリーグ開幕特集として「2023年に注目すべき23人」を紹介していく。ここでは高卒&ユース出身のルーキー5人を取り上げる(13人〜17人目/23人)

上写真=左から山本(柏)、熊田(FC東京)、名願(川崎F)行徳(名古屋)、保田(大分)(写真◎J.LEAGUE)

文◎川端暁彦 写真◎川端暁彦、J.LEAGUE

在学中からJのピッチに

「高卒ルーキー」という言葉は一般的に用いられているものの、サッカーにおいてそれほど明確なものではない。

 そもそも今年からJリーグのピッチに足を踏み入れる高校サッカー出身者はこれから卒業式を迎えるというのもあるのだが、在学中からJリーグのピッチに立つことも制度上可能になっているからだ。

 たとえば、昌平高校からFC東京入りする荒井悠汰は、昨季のルヴァン杯で3試合に出場済み。たとえ彼が青赤のユニフォームをまとって今年のピッチに立ったとしても、それは「デビュー」ではない。そんなマージナルな世界である。

 特にJのユースチームに所属している選手に関して言うと顕著な傾向なので、「高卒ルーキー」として紹介するにあたって、昨季のリーグ戦19試合に出場している北野颯汰などは年齢的に「高卒ルーキー」ながら、今回の枠からはちょっと除外させてもらっている。

熊田直紀(FC東京←FC東京U-18/FW)

昨シーズン、すでにJ1デビューを果たしている熊田直紀(くまた・なおき)

 冒頭で紹介した荒井のいるFC東京は「高卒ルーキー」という意味で最注目チームだろう。昨季は青森山田高校から加入したMF松木玖生を大抜擢。欠点ではなく美点を評価するタイプの指導者だけに、分厚い選手層を抱えるチームとは言え、若手の抜擢には今季も期待が集まる。

 中でも大きな期待の集まる特級品のポテンシャルを備えるのが、FW熊田直紀だ。

 一目で181cm・79kgという高校生離れしたボディが目を引く選手で、「好きなトレーニングは筋トレ」と語る日々の努力で作られた肉体を持つあたりは松木とも共通するところ。ユース年代では豪快などジャンピングボレーなど“動画映えする”スーパーゴールを幾つも決めてきており、高円宮杯U-18プレミアリーグで対戦した強豪の高校、ユースチームの指導者たちも「あの子はちょっとモノが違う」と驚嘆させた。

 U-18チームで指導に当たった東京ガスFC時代からのクラブレジェンド・奥原崇監督も、「自分が指導してきた中でも持っているモノは一番」と太鼓判を推す。プレーの波が大きかった彼を覚醒させるためにインサイドハーフで起用するなどあの手この手で刺激し、昨年ついに覚醒させた。

 どん欲にゴールにこだわるストライカーのメンタリティを持ちつつ、プレーの幅は意外に広い。すでに昨季からトップチームでの経験を積んでおり、MF俵積田晃太ら他のU-18出身組ともども左足の豪快な一発で味スタを沸かせるのもそう遠くないと期待したい。

山本桜大(柏レイソル←柏U-18/FW)

山本桜大(やまもと・おうた)はJ1のピッチでもその得点力を示せるか

 高卒ルーキーの起用については、特に監督次第の部分が大きい。欠点から選手を評価するタイプの指導者の下で、未熟な選手が責任を与えられることは稀だからだ。その点において、大胆に若手を起用し、使いながら育てることに定評のあるネルシーニョ監督が率いている柏レイソルも注目だろう。

 2月12日に行われた第27回ちばぎんカップでもピッチに立っているFW山本桜大は、名伯楽の下でブレイクする可能性を持った選手の一人。日立サッカースクール(柏レイソルアカデミーの前身)から育った元日本代表MF酒井直樹監督の下で、「トップチームにいくだけじゃなく、そこで活躍してもらわないといけない選手なので、高い要求をしている」と薫陶を受け、その才能を開花させてきた。

「自分が決めていけば勝てると思うし、自分が決めないと勝てないと思っている」

 本人もそうした期待を感じつつ、昨年はU-18チームのエースとして常に「ゴール」にフォーカスしてプレーしてきた。派手なゴールを決めた試合後、「今日は外し過ぎました」と悔しそうに話し始めるので面食らったことがあるが、志の高さはそのままストライカーとしてのポテンシャルでもある。

 ウイングでのプレー経験も多く、「得意な形」と語るのは左サイドからのドリブルシュート。ボールを持ちながら、そこへ狙えるのかと驚くようなフィニッシュを決めてくる。それに加えて泥の匂いのする抜け目ないゴールも増え、相手DFを出し抜いて裏へ抜け出すプレーも大きく進歩。まずは出番があるにしても途中出場ということになるだろうが、ブレイクスルーの可能性は十分にありそうだ。

名願斗哉(川崎フロンターレ←履正社高/FW)

履正社高時代から圧倒的な突破力を示していた名願斗哉(みょうがん・とうや)

 高校サッカー選手権からは前述の荒井や清水エスパルス入りした日大藤沢高校のFW森重陽介、セレッソ大阪入りした神村学園高校の大迫塁の名前が挙がるだろうが、中でも個人的に注目しているのは履正社高校から川崎フロンターレ入りする名願斗哉である。

「一目で『これは違うぞ』と思った」という履正社の平野直樹監督は、日本代表FW町野修斗に対してもそうしたように、「欠点ばかり指摘して彼の良さを消してしまわないようにしながら、少しずつ守備や強度のところなど苦手な部分もできる選手にしていこうと接してきた」と振り返る。

 繊細なボールタッチは当初から際立っていたというが、身長が止まってからはプレーも安定。流れるようにボールを運ぶドリブルにスピードが伴うようになったことで怖さと実効性が増し、磨いたシュートは結果にも繋がるようになった。パスの選択肢を残しながら仕掛ける彼のドリブルは、高校年代では完全に傑出したレベルだった。

 とはいえ、加入先の川崎フロンターレは日本で最もレベルが高いチームの一つ。「オファーをいただけたのは本当に光栄」と本人が恐縮したように、ずっと憧れて何度も映像を観ていたチームでもある。いきなりの活躍を期待するのはハードルを上げ過ぎなのかもしれないが、ボールを持てば何かやってくれる。そんな期待感は特級品の選手である。

行徳瑛(名古屋グランパス←静岡学園/DF)

ポテンシャルは申し分なしの行徳瑛(ぎょうとく・えい)。技術を備えるCBとして期待大

 直近の選手権組以外の高校サッカーからは名門・静岡学園高校から名古屋グランパス入りしたDF行徳瑛の名前を挙げておきたい。清水、大宮アルディージャ、FC岐阜などで監督を務めた行徳浩二氏を父に持つが、DFとしてはそれほど大きくない父親とは異なり、185cmの長身選手である。

 昨季の選手権予選敗退後、一足早くに名古屋グランパスとモウリーニョ監督率いるASローマが対戦した「EUROJAPAN CUP 2022」で名古屋の“トップデビュー”。クラブの期待値の高さを感じる一幕だったが、早めに高いレベルの刺激を受けたのはポジティブに作用しそうだ。

 肉体面を含めて完成度はまだまだのところはあるが、「自信があるのは足元の技術」と語るように“静岡学園らしさ”を感じさせる後方からのドリブルでの持ち運び、チャレンジ心のある縦パスなど攻撃面のクオリティは、プレスをかいくぐることが求められる現代のCBにとっての重要な資質。戦術面を含めて成長するべき要素は多そうだが、完成したときの期待値はかなり高い選手と言えるだろう。

保田堅心(大分トリニータ←大分U-18/MF)

昨季、リーグ戦に出場し、一層の飛躍に期待がかかる保田堅心(やすだ・けんしん)

 最後に、J2からは大分トリニータの保田堅心を挙げておこう。昨季はリーグ戦8試合に出場しており、ギリギリ「高卒ルーキー」と言えなくなるか迷うレベルなのだが、まだまだ知られていない選手だとも感じているので、ここで紹介しておきたい。

 U-20日本代表にバルセロナの高橋仁胡と二人だけ飛び級招集されている事実が示す通り、その質の高さは折り紙付き。年代別日本代表とJ2でのプレーぶりから海外のスカウトからも早くも注目を集めており、海外のスタジアムで「大分の保田についてどう思う? 凄く良い選手だと感じるんだけど」と某クラブのスカウトから聞かれたこともあるほどだ。

 器用にパスをさばけるボランチは少なくないが、保田はその中で前に出て行く推進力とゴール前まで顔を出せるダイナミックさを併せ持つ。いわゆる連続性のあるプレーを自然と体現できる現代サッカーに合ったタイプの選手だ。プロとして臨む今季は、中心選手にまで這い上がり、チームを押し上げる原動力になるところまで期待したい。

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