2022年の明治安田生命J1リーグで、川崎フロンターレは2位に終わった。11月5日の最終節で3-2で逃げきったものの、3連覇の夢はついえた。これで今季の無冠も決定。苦しいシーズンを象徴するようにケガに泣かされた大島僚太は、思慮深く思う。

上写真=大島僚太の不在がチームに与えた影響は大きかった(写真◎小山真司)

■2022年11月5日 J1リーグ第34節(味スタ/34,820人)
FC東京 2-3 川崎F
得点者:(F)アダイウトン2
    (川)脇坂泰斗、マルシーニョ、オウンゴール

「自分の考えと一致していた」

 勝ち点がわずかに2だけ及ばなかった。川崎フロンターレは、優勝を逃した。3連覇への挑戦は、2019年に続いて夢破れた。ほかのタイトルも獲得できず、鬼木達監督が就任した2017年以降、初めての無冠だ。

 しばらくは、さまざまな場所でたくさんの反省と分析と後悔が乱れ飛ぶだろうが、その数多くのうちの一つとして挙げるならば、「大島僚太の不在」が示唆的ではないだろうか。

「僕がいたからどうということはありませんが」

 大島はそう話し始める。

「チームの活動になかなか参加できなかったので、練習に、試合にたくさん参加したかった思いがあります」

 誰が見ても卓越した技術と戦術眼を持っていて、鬼木達監督も改めて「自分たちがやろうとするサッカーを一番体現できます。ケガ明けでもすぐに体現できるスキルと頭脳を持った選手です」と手放しで称える。

 この言葉はつまり、大島僚太こそ川崎フロンターレそのものだ、という意味に聞こえる。

 2022年も負傷に泣かされ、リーグ戦では11試合、559分のプレーにとどまり、ゴールも一つ。引退の二文字が頭をよぎるときもある、と明かした日もあった。でもそのたびに帰ってきた。

 FC東京との最終節、自分たちが勝って首位の横浜F・マリノスが敗れれば、大逆転3連覇を達成できるところまでこぎつけた。ところが、19分に脇坂泰斗が先制したものの、29分でGKチョン・ソンリョンが退場処分を受け、1人少なくなった。後半開始直後に同点とされてさらに苦しくなり、それからも押し込まれながら、でも耐えて、逆襲のときを待っていた。59分、まさにその瞬間と鬼木監督が切ったカードが、知念慶とともに大島をピッチに送り込むことだった。

「前半から10人になったし、押し込まれる展開になるとは思っていました。いずれやられる可能性もあるとは思っていたので、自分だったらこうしたいということは想定してピッチに入る準備をしていました。追いつかれても、そうか、と驚かずに、それも想定していました」

 システムを4-3-2にシフトして、前からボールを追うスイッチを入れた。すると、自分たちの足元にボールを置くことができる時間が増えていった。

「ベンチで前半から見ていてヤマくん(山村和也)と話していて、このシステムでやっていたらいずれ失点する可能性があるよね、と。だったら4-3-2かなと予測を立てながら見ていて、自分ならどこに立つかイメージしていました。4-3-2で前から行くことは指示もあったし自分の考えと一致していたので、自信を持っていこうという感覚になりました」 

 ベンチと交代選手の意思がぴたりと合った。2分後、ゴールが生まれる。右サイド深くで知念がボールに寄せ、大島が縦へのコースを抑えると相手はボールを中央へ、これを橘田健人が狙って猛然とアタックした。ボールを下げさせ、森重真人がゴールライン際でキープしようとしたボールを橘田が強奪し、マイナスへ。マルシーニョが蹴り込んで、勝ち越した。

 直接的にゴールに絡んでいないものの、相手のパスコースを封じる場所に立ってボールが中央に渡るように仕向けたさりげないポジショニング一つで、仲間を優位に立たせた。このあと1点ずつが生まれて3-2で勝利を収めたものの、優勝には届かなかった。

「毎日、うまくなりたい、強くなりたい、負けたくないという思いを練習にぶつけたいし、みんなを巻き込めるようにしたい」

「巻き込む」という言葉が象徴的だ。自らの技術と頭脳でチームのための大きなうねりを起こし、すべての仲間たちを包み込むようにして導いていくこと。

 2023年、大島は真のリーダーになる。

取材◎平澤大輔 写真◎小山真司