明治安田生命J1リーグで逆転優勝を実現するには、負けることが許されない2位の川崎フロンターレ。10月29日、ホーム最終戦の第33節でヴィッセル神戸を2-1で下した。先制点につながるパスと決勝PKを決めた家長昭博が「優勝できたらラッキー」の言葉に込めた自戒と平常心とは。

上写真=84分、緊張感高まるPKを家長昭博がゴール右上に決めて勝利をもぎ取った(写真◎J.LEAGUE)

■2022年10月29日 J1リーグ第33節(等々力/22,110人)
川崎F 2-1 神戸
得点者:(川)マルシーニョ、家長昭博
    (神)小林祐希

「80分ぐらいまで我慢しよう」

 家長昭博にしては珍しく、感情が爆発した。84分、勝ち越しPKを決めたあとにその場に膝をつき、右の拳で地面を2回たたいて喜びを表現した。

「良かったな、と」

 試合後にそのシーンを振り返るともう、いつものように冷静で、言葉もシンプルだった。首位の横浜F・マリノスがリードしていることは「個人的に聞いていた」から、ここでPKを成功させて勝利をもぎ取らなければ優勝を決められてしまうことはわかっていた。そんな緊迫の場面でも、きっちり決めきる精神力と技術の凄みを見せたのだった。

 前半はほとんどが川崎フロンターレのペースで、20分には家長が右から中央に送った浮き球のパスが相手の判断ミスを誘ってこぼれ、マルシーニョが拾って蹴り込んだ。先制ゴールにつながるこのパスはもちろん、いつものように右サイドで山根視来と脇坂泰斗との気持ちのいいコンビネーションで崩し、ときおり逆サイドまで顔を出してテンポをつくり出した。

「アキは今週は足の具合がずっと悪い中でも、最後まで走りきって、パフォーマンスには思うところはあっただろうけれど、最後までやってくれました」

 鬼木達監督は家長のコンディションが万全ではないことを明かしたが、それを一切感じさせないパフォーマンスだった。

 ただ試合は、先制しながらも後半開始早々の51分に小林祐希にスーパーFKを決められて追いつかれている。今季は先制しても突き放せない展開が続いて苦しんできた。だがこの試合では乗り越えた。

「理想を言えばもっと点がほしいけれど、1点決められたあとにもう1点決められてもおかしくなかった雰囲気もあって、80分ぐらいまで我慢しようと、視来とか(谷口)彰悟と話しました。残り10分ぐらいで攻め合いになって、ビッグチャンスが何回か来るかなと思って。1回落ち着いて、同点の時間を嫌がらずにやろうと」

 小林悠が倒されて、一度はFKの判定が下されたものの、VARチェックのあとのオンフィールドレビューでPKに変わったのが、79分だった。まさに言葉通りの我慢の成果だ。「たまたまうまくいっただけ」とうそぶくが、冷静に見極めて相手の勢いをいなしていく戦いができて、優勝への可能性をつないだ。

 とはいえ、「粘れているというけれど、この勝ち点しか取っていないというのはダメなこと」と、63ポイントに甘んじて首位の横浜F・マリノスより2ポイント少ないこと自体を厳しく見据える。だからそれを受け入れて、最終節にFC東京と戦う「多摩川クラシコ」に臨む心もナチュラル。

「勝って終わりたいと思いますし、優勝できたらラッキーです。何か特別な感情はそんなにないですね」

 目の前の試合に絶対に勝つこと。その繰り返しの、最後がたまたま次の試合だ、というスタンスで、そのラッキーを引き寄せてみせる。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE