川崎フロンターレの家長昭博は、やはりただ者ではない。9月10日の明治安田生命J1リーグ第29節、サンフレッチェ広島を4-0の大差で制した上位決戦で、2ゴールを決めて立役者になった。しかも、それだけではない。独特の存在感が若手を生き生きとさせている。

「知念にPKを取られたので」の優しさ

 もう一人、家長が一本立ちへと背中を押したのがFW知念慶だ。レアンドロ・ダミアンの負傷によって、活躍がさらに期待されるストライカー。59分に脇坂泰斗のゴールで2-0としたあと、その脇坂が倒されて得たPKを、普段キッカーを務める家長に譲ってくれと懇願した。

「PKはどうしても決めたかったので、アキさん(家長)にお願いしました。アキさんはちょっと怒っていたようですけど、ゴリ押ししたら3回ぐらいで譲ってもらえました」

 知念には、家族が観戦に訪れた試合で決めていなかったために、今日こそは、の思いがあふれ出したという。家長は「PKは自分が蹴りたかったのは当然ですけど、蹴りたい選手がいたので今回は譲りました」と後輩の強い気持ちを思った。いわば、男気のアシスト。VARチェックが入って少し時間が空いたものの、68分、知念が落ち着いて右に決めた。

 そして、78分の総仕上げ。またもや佐々木が左を抜けて、さりげなくボックスの中のマルシーニョへ。右足で巻いたシュートはGK大迫敬介に弾かれるが、こぼれ球を予測していた家長が左足で力強く突き刺した。

「相手は3バックなので、片方から攻めると逆が空くと思っていて、いいところにこぼれました」

 堅固な3バックの弱点を見極めて確実に突く冷徹さ。迷いなく左足を振って、ゴールセレブレーションでおどけてみせるのだが、「知念にPKを取られたのでもう1点取りたくて、決められてよかったです」とユーモアたっぷりにあえて知念の名前を出すのも、優しさだ。

 ほかにも、マルシーニョが左から突破してラストパスを受けて狙ったり、ジャンピングボレーで沸かせるなど、圧巻のパフォーマンスを見せた。湘南ベルマーレに敗れて中2日、優勝のためには絶対に負けられない上位決戦を制した。大事なのは「逃げないこと」だったと強調する。

「相手のプレッシャーが来てもしっかりつなごうという意志があったかどうか。それがなければ前にボールが来ません。そこがすべてだと思います。後ろでしっかりつなぐと、前で余裕ができる。逃げるのは簡単だけど、逃げるといい形にならない。そこがいいときと悪いときの差です」

 首位の横浜F・マリノスを勝ち点3差で追走する。残りは7試合。ここから3試合はアウェーゲームだ。

「勝利することが義務付けられています。それが求められています」という強い気持ちと、「試合数は少ないけれどまだ長いと思うので、気楽に、真剣に頑張っていきたい」という適度な脱力が、この人が周囲を巻き込む最大の魅力。

「チームのみんなには、この緊張感を楽しんでほしいですね」

 家長が誰よりも楽しんでいるからこそ生まれる、仲間への心強いメッセージだ。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE