古今東西のサッカーの話題を取り上げ、対話形式で議論を深めるこの企画。今回は9月3日に行われるJ1第28節の中から『FC東京対横浜F・マリノス』(@味の素スタジアム/19時キックオフ)を取りあげ、とくにホームチームであるFC東京の変化にフォーカスしつつ、注目カードを『展望』する。サッカージャーナリストの北條聡氏に聞いた。

人を捕まえにいく意識を持てるか?

激しく争う横浜FMの喜田とFC東京の安部(写真◎J.LEAGUE)

ーー先日の柏戦で言えば、2点を奪ったあと、FC東京は後半に3失点することになりました。守備面の問題が出たとも言えます。

北條 対横浜FMとなったときにFC東京が考えなくてはならないのは、柏戦で2-0とした後の展開でしょう。81分に柏の上島拓巳が退場しましたが、後半開始から81分までの間の展開が横浜FM戦でも増えると思います。FC東京は今季、昨季から180度違うスタイルを推し進めているわけで、当然いろんなことを変えていかなければいけないですが、攻撃がシーズン前半戦に比べて改善されている一方で、守備の問題はまだまだ改善し切れていません。先行した際に受け身になりやすいのは当然としても、例えば0-0であっても、FC東京には受け身になる傾向が見えます。そして柏戦でとくに問題だったのは、人に対してプレッシャーがかかりにくいことでした。

ーーなぜ、そうなるのでしょう。

北條 今、世界でもトップレベルではほとんどがそうだと思いますが、J1でも上位にいるチームの多くが、人を捕まえにいくプレスを行います。アルベル監督の意図かどうかは判断しかねますが、FC東京はゾーンの意識が強い。

ーー昨年までの戦いの中で培ってきたものと言えるかもしれません。

北條 コンパクトなブロックを組むことを優先しているのは分かりますが、人を捕まえる意識に関しては少し希薄なところが見受けられます。柏戦ではサイドに起点をつくられて、そこからのクロスで失点しました。クロスが入るまでほとんど相手選手に対してコンタクトできず、ボールを運ばれてしまったのは、人に対してアプローチできていないから。大南拓磨からのクロスで失点しましたが、横浜FMには周知のとおり、水沼宏太というクロサーがいます。危険度は、横浜FMの方が高いでしょう。
 当然、相手とのフォーメーションの兼ね合いもありますし、あの場面にフォーカスすると、渡邊はかなり中にポジションを取っていて、最終的にはアプローチしに行ったものの、最初のところではどうだったのか、というのはある。同時に佳史扶は人を捕まえておらず、余っている状態で後ろにいました。「ステイしろ」との指示があったのかもしれませんが、渡邊が中にいるのであれば、佳史扶は前に出て大南を捕まえに行く方がよかったかもしれない。フォーメーションの噛み合わせが悪い相手に対して、どう守るか。決め事はあると思いますが、ここでもう一度、整理しておく必要はあるでしょう。

ーー先ほど柏と横浜FMは違うという話がありましたが、その違いはFC東京にとって守備面で感じることになりそうですね。

北條 柏戦ではFC東京がボールを持つ時間が長かったので、攻撃する時間も必然的に長くなりました。次戦の相手・横浜FMはそもそもボールを動かす力がある上に、守備の強度も高いチームです。そうなると当然、FC東京は守る時間が長くなる。そのときにどうするのか、ということです。どうやってボールを奪うか。
 チーム全体で前からハメる意図をもってボールを奪っているシーンはここまであまりなかったと思います。高い位置で奪うのは、どちらかと言えば、松木や安部柊斗ら個人の力によるところが大きい。むろんハイプレスは一朝一夕でできるわけでもないし、アルビレックス新潟時代を振り返ってもアルベル監督に、ハイプレスを徹底的にやる考えはないようにも思います。カウンタープレスは実践していましたが。そうなると、いかに強度を落とさずに戦えるかがポイントで、交代枠をうまく使いながら戦うことがカギになるのではないかと。柏戦も、もう少しカードを切るのが早くてもよかったのではないかと思います。

ーーFC東京の勝ち筋はいかに強度を保ち、幅と深さを取って攻め切れるか。

北條 スプリントの回数も走行距離もここ数シーズンは横浜FMがダントツの数字を残していました。今年はサガン鳥栖や京都サンガF.C.、一時はサンフレッチェ広島に次ぐ数字になっていましたが、FC東京が上位陣を破り、さらに順位を上げていくには、そういうチーム相手に強度を上げて戦うことが求められます。横浜FM戦はまさに、そこが問われる試合になるかもしれない。変革期にあることを踏まえれば、現状ではいかに『自分たちの時間』を長くするかにトライする方向になるとは思いますが、ブロック組んだときに人を捕まえに行くこと、そして失点のリスクをどれだけ下げられるかは注目すべき点だと思います。

ーー完成度でまさり、順位も2位と7位で、横浜FMが上。しかし8月に公式戦4連敗を喫していて、今回のFC東京戦は横浜FMにとってJ1優勝を果たすために負けられない一戦という位置づけでしょう。

北條 横浜FMはこの間のACLのヴィッセル神戸でもそうでしたが、ルヴァンカップ準々決勝の広島戦にしろ、強度の高い相手のプレッシャーに苦しんだのは間違いないところです。相手のハイプレスをかわしても中盤でロストして一気に背後を突かれる形が散見し、神戸戦はそれに近い形で失点していました。リーグ戦は8月7日の川崎フロンターレ戦以来で、8月には優勝を目指していたACLとルヴァンカップという二つのカップ戦に敗退しています。試合勘の部分とメンタル面がどこまで回復しているかが、横浜FMにとっては大きなカギになるでしょう。