古今東西のサッカーの話題を取り上げ、対話形式で議論を深めるこの企画。今回は9月3日に行われるJ1第28節の中から『FC東京対横浜F・マリノス』(@味の素スタジアム/19時キックオフ)を取りあげ、とくにホームチームであるFC東京の変化にフォーカスしつつ、注目カードを『展望』する。サッカージャーナリストの北條聡氏に聞いた。

上写真=6節(4月2日)で対戦した際は横浜FMが2ー1でFC東京を下している(写真◎J.LEAGUE)

聞き手◎佐藤 景

前節、大勝したFC東京に攻撃改善の兆し

ーー9月3日に行われるJ1第28節は多くの注目カードがありますが、今回はFC東京対横浜F・マリノスについて考察、展望したいと思います。前回、FC東京を取りあげてから少し時間が経ちました。変化を感じる部分はありますか。

北條 攻撃が良くなっていると思います。メンバーが変わったこともありますが、とくにビルドアップが改善されています。センターバック(CB)の立ち位置が良くなったことが関係していると思います。最初の頃は、前回も話した通り、相手が2枚でプレスに来る際に、後ろで3枚回しをする(3人でボールを回す)ケースがなかったけれど、常に3人で回すというわけではないものの、2人のCBがしっかり距離を取って、真ん中にアンカーの東慶悟が落ちてくるケースが見られます。それに伴い、インサイドハーフの松木玖生も1列下りてきてビルドアップを助けるシーンは増えている。おそらくアルベル監督としては松木には高い位置に留まって2列目でボールを受けてもらう方がいいと考えていたと思います。ただ受けるも何も、まず後ろでボールを回す次の展開、つまり『出口』をつくらないとボールを前に運んではいけない。そこで松木がフォローに入るケースが増えている。相手のプレスの形に応じてビルドアップの場面で下がったり下がらなかったりという選択が、随分とスムーズになってきました。

ーー前節の柏戦はその形が見られました(6-3でFC東京が勝利)。

北條 柏は、前から行うプレスが強いチームなので、前進するのが難しい時間帯もありました。それでもFC東京のビルドアップは以前と比べればかなりスムーズになっています。相手に詰められると、出口を見つけられずに大きくライン裏にボール蹴るシーンが多かったのですが、柏戦では何度も出口をつくっていました。
 相手の柏は細かく言えばハイプレスというよりもミドルプレスに近い形で守っていましたが、陣形をコンパクトにするために最終ラインを押し上げてハイラインになります。それに対してFC東京はサイドで起点をつくって攻めていた。1点目の松木玖生のゴールは象徴的ですが、外に開いた紺野和也にボールを入れて起点をつくり、ディエゴ・オリヴェイラが背後に走ってチャンスを広げた。幅と深さを絡めて攻撃できていました。

ーー以前は幅と深さを同時に取るケースが限られていました。

北條 もちろん、柏が相手だったので幅と深さを取る狙いがチームにあったと思いますが、前半に挙げた2ゴール(松木、バングーナガンデ佳史扶)は、その意味でパーフェクトでした。柏はたくさん失点するようなチームではありませんが、2点目も塚川孝輝が反転し、紺野が右サイドを抜け出したところから渡邊凌磨経由で最後は佳史扶が決めている。そういう『形』がピッチで出せるようになってきたと感じます。

ーー柏戦でポジティブな要素を見せたFC東京は次節(9月3日)、今季のJ1を引っ張っている上位の横浜FMと対戦します。この対戦をどう読みますか。

北條 言うまでもなく、横浜FMと柏は違います。ただ、横浜FMもハイラインのチームではあるので、FC東京の立場に立ってみると、「幅と深さ」を取って攻めるという点において攻略のイメージが重なる部分はあるでしょう。組み合わせによってですが、やはりどうやってボールを動かすかは重要です。それによってゴール前の崩しも変わってくるので。

ーーどういうことでしょう。

北條 先ほども触れましたが、渡邊が4-3-3の左ウイングで出場した場合、渡邊は内側に入ってくるウイングで、左サイドバックの佳史扶は『外回り』のタイプですよね。例えばビルドアップの時に、アンカーの東慶悟が1列下りて、インサイドハーフの松木も連動して下りるとなったときに、それだけなら中盤が二人になってしまいますけど、渡邊は頻繁に中に入ってくるので、3人という数をキープできる。そして空けたサイドのスペースには佳史扶が入り、幅を取る。仮に後ろを2枚で回せるとなれば、渡邊を加えた4人で中盤を構成できるし、渡邊は良いポジションを取る選手なので優位な展開を導く可能性も高まる。柏戦で見られたようにボールをうまく前進させ、動かすことで崩しの形をつくりたいということです。ただ、両ウイングがアダイウトンと紺野という組み合わせだとまた攻め筋が変わってきますが。
 柏戦で2点を取っていますし、アダイウトンの先発起用ということも当然あり得ますが、途中からジョーカーとして出てきたときの破壊力には、すさまじいものがある。逆にアダイウトンを先発させて、交代策を考えたときにどのくらいのインパクトを与えられるか。そこはアルベル監督がどう考えるかですが。

ーー今のアダイウトンは、ちょっとやそっとでは止められない凄みがありますね。

北條 FC東京が先に点を取って横浜FMが前がかりに来るという展開になったときに、アダイウトンというカードを切ってカウンターを狙って追加点を目指す。柏戦はそういう展開が多かったですけど、FC東京がリードした展開、あるいは0ー0の状況でも同じだと思います。とくに横浜FMが相手となると、押し込まれる時間が長くなることが想定されます。前半からアダイウトンを起用すると、どうしても守備の強度が落ちるというデメリットが出てしまう。前半に失点を重ねたくはないので、やはり後半に投入する方がいいのではないかと思います。