まさに地獄からの生還だった。8月25日のAFCチャンピオンズリーグ準決勝で全北現代からキャスパー・ユンカーが延長戦終了間際の同点ゴールを決めてみせた。ストライカーとしての仕事を全うしたレフティーは、「浦和のレジェンドになるのを望まない選手はいない」と来年2月の決勝に思いを馳せる。

上写真=ユンカーが土壇場でチームを救うスーパーゴール!(写真◎AFC)

■2022年8月25日 ACL準決勝(埼玉/23,277人)
全北現代(韓国)2-2〈延長〉PK1-3 浦和(日本)
得点者:(全)ペク・スンホ、オウンゴール
    (浦)松尾佑介、キャスパー・ユンカー

緊張は感覚を研ぎ澄ます

 ボールが弾むリズムに歩幅を合わせるようにして、キャスパー・ユンカーはステップをうまく踏んでから足を振った。利き足の左ではなく、右だった。

「角度的には難しかったけれど、フォワードにとってこぼれ球を押し込むのは重要な仕事なので、それができて満足です」

 これが狭い方のニアを力強く抜いたのだ。

 しかも、ただのゴールではない。東アジアナンバーワンを決める準決勝で、全北現代との「日韓戦」。先制しながら追いつかれ、79分にピッチに登場したものの延長戦へともつれ込み、押し迫った116分に逆転ゴールを許す絶体絶命。そこからアディショナルタイムに入る直前の120分に決めた、まさしく地獄からの生還を果たした一発だったのだ。

 酒井宏樹からのクロスをクリアされながら大久保智明がボレーシュート、明本考浩がヘッドでたたいてゴール右を狙ったが、GKにはじかれた。そこにいたユンカーは、どうしてあの極限状態でゴールを決めることができたのか。理由に「場所」と「心」を挙げた。

「感覚的なものではあるけれど、常にチャンスに対して待ち構えることが重要で、それがストライカーとしての仕事です」

〈そこにいる〉ことこそがストライカーたるゆえん。でも、いるだけでは決められない。実際に、延長戦に入る前のアディショナルタイム、90+6分には江坂任から優しさあふれるパスを受けて自慢の左足で狙ったが、左ポストに弾かれてしまった。

「(交代で入って)10分で試合を終わらせたくなくて、単純にもっと長くプレーしたかったからね」と外した理由をユーモアに包んで笑わせたが、ビッグチャンスを逃したことに何も感じないわけはない。それでも狙い続けることもまた、ストライカーのお仕事。

「90分近くに大きなチャンスを外してしまったけれど、メンタル的に左右されずに延長戦で決めることができました。ストライカーとして、冷静さを保つことは重要な要素なのです」

 自らの同点ゴールで希望をつないだPK戦。先行の全北現代をGK西川周作が2人連続でストップして、2人目がユンカーの番。

「もちろん緊張しました。スタジアム中が集中して自分を見ている状況でしたからね。でも緊張は、自分の感覚を研ぎ澄ますために重要だと思っています」

 緊張は敵ではなく、心強い味方である、という心持ちもまた、ストライカーに必要不可欠。左足でずばっとゴール右下に突き刺した。

 決勝は2023年2月。まだ先の話だ、としながらも、ユンカーは意欲を隠さない。

「クラブにとっても自分にとっても、素晴らしい決勝という舞台でチャンピオンになれるチャンスです。チャンピオンになった瞬間に浦和のレジェンドになれるわけですから、それを望まない選手はいないでしょう」

 そして、再びユンカーがゴールを決めてクラブで3度目のアジア王者になることができれば、レジェンドの中のレジェンドとして歴史にその名を刻むことになる。

取材◎平澤大輔 写真◎AFC