AFCチャンピオンズリーグのラウンド16で横浜F・マリノスを破ったヴィッセル神戸。強度で相手を上回り、流麗なスタイルを封じ込めたプレーは見事だった。その象徴的な存在が飯野七聖だろう。3つのゴールすべてに絡んで、ベスト8進出の主役になった。

上写真=開始早々の7分、飯野七聖は汰木康也のパスから抜け出してチップキックで先制ゴール!(写真◎AFC)

■2022年8月18日 ACLラウンド16(埼玉/11,528人)
神戸(日本)3-2 横浜FM(日本)
得点者:(神)飯野七聖、佐々木大樹、小田裕太郎
    (横)西村拓真、アンデルソン・ロペス

「いまよりもっとむちゃくちゃ走っても」

「ああいうタイプではないけど、今日は冷静でした」

 飯野七聖が初々しい照れ笑いで振り返ったのは、自らが決めた先制点のシーンだ。開始わずか7分、左サイドで汰木康也が相手のパスを引っ掛けて前進するのを見て、迷いなく右のオープンスペースへと駆け出していく。

 汰木が完璧なタイミングで完璧なコースに流し入れると、ワンタッチで運んでから、GK高丘陽平が飛び出してくるのをしっかり見て、落ち着いてチップキック気味に肩口を抜いてゴール右に送り込んだ。この推進力こそ、飯野の最大の魅力。

「今日は勝ったこともそうですけど、やっと自分の特徴がチームに還元できるようになってきたのが大きいです。勝つために加入したので」

 6月にサガン鳥栖から加わって、これが移籍後初ゴール。前へ、という持ち味を発揮した上での記念のゴールだから、なおさら意味がある。

 この右サイドのスペースは横浜FM攻略のキーエリアになった。左サイドでボールを運べる汰木や酒井高徳で作っておいて、空いた逆サイドへ素早く展開して、飯野が勝負を仕掛ける。

「相手のエウベル選手が下がってこないのは分析でわかっていましたし、マリノスは4バックでスライドを頑張るチームですけど、中に大迫(勇也)選手がいることでそれが難しくなると自分の中で思っていました。だからできるだけサイドに張って、逆サイドの(酒井)高徳選手から一気に振って1対1を仕掛ける形を作ろうと話をしていました。彼が真ん中にいることでサイドが空きますし、大迫選手に入ったときには僕が後ろから飛び出すとチャンスになっていきます」

 2点目のPK獲得のシーンも飯野の強烈なプレスバックがきっかけになった。そして、もしかしたらゴールシーン以上に圧巻だったのが、3点目を生んだ執念のダッシュかもしれない。80分、汰木が左から突破して送ったセンタリングが、ゴール前を通過して逆サイドに転々。タッチラインを割りそうだったからどの選手も一度、スピードを緩めた。飯野を除いては。

 トップスピードに乗ればラインを割らないと判断すると、ボールまでの長い距離を猛然と駆け寄って、ぎりぎりで残した。サポートに入った山口蛍に下げると、山口は大崎玲央に預けてから裏でもらってマイナスへ、これをニアで小田裕太郎が蹴り込んだ。このあとに1点を返されたから、これが決勝ゴールになった。

 左の汰木がドリブラーなら、右の飯野は自身を「クロッサー」だと言う。左右でタイプの違うウイングを擁して、神戸の攻撃のバリエーションは確かに増えた。

「僕が加入するまでは左に偏った攻撃が多いのもあって、神戸さんが僕に声をかけてくれましたし、求められているプレーはその一つだと思っているので、そこはブレずにやっています」

 トップレベルの選手に囲まれる環境で、自分の武器がチームの勝利に直結する快感をアジアの舞台で味わった。大迫との関係を「クロッサーとして学ぶところが多い。完璧にしたい」と意気込めば、この日は出番がなかったものの、アンドレス・イニエスタとは「いまよりもっとむちゃくちゃ走っても、パスが出てくるという印象です」と、リミッターを切って走りまくる意欲を示す。

 それでも、調子に乗らないのが飯野のスタンス。

「僕は一気に高みを目指すというより、一つひとつ確実にインパクトを残して駆け上がってきたタイプなので、地に足をつけて頑張りたいと思います」

 次のインパクトは、一体どんなものになるだろうか。 

取材◎平澤大輔 写真◎AFC