FC東京が明治安田生命J1リーグで、7月の5試合を3勝1分け1敗で乗り切った。ジュビロ磐田、サンフレッチェ広島と連破して、チーム状態も上り調子だ。ここまでの23試合のうち、木本恭生はフィールドプレーヤーでは最長の22試合、1964分でプレーしていて、いまや「青赤の壁」の象徴だ。

上写真=木本恭生は広島戦の失点を悔やむが、「我慢」で逆転できた事実を喜んだ(写真提供◎FC東京)

「攻撃しながら守備をする」

「あのシュートに関しては、相手をほめれば終わりかもしれないですけど…」

 木本恭生が振り返るのは、J1第23節のサンフレッチェ広島戦、40分の一瞬のことだ。森島司が放った矢のようなミドルシュートがゴール左に突き刺さり、先制パンチを食らった。まさしくゴラッソ。GK波多野豪もどうしようもなかった。

 でも、そうだろうかと木本は問う。

「フリーで打たせたという課題があるんです。ボールを失ってからの準備ができていない中で、もう一歩寄せることでプレッシャーをかけられるし、シュートコースの制限もできます。一歩寄せる、という細かいことを修正すれば失点は減ると思うので」

 最終ラインからつないで前進しようとしたところでロストした瞬間、森島はこちらの守備ラインから離れるようにして下がって受けた。バングーナガンデ佳史扶が抑えにかかるが、その直前にシュートを打たれている。

 それでも後半にはディエゴ・オリヴェイラとアダイウトンが決めて、逆転勝利に持ち込んだ。センターバックの木本としては「我慢」で勝利につなげていった。

「事故的に1失点はしてしまうことはあるので、2失点目をしなかったことがすごくよかったですね。1失点のあとに我慢強く守って逆転のきっかけになりました。やりたいサッカー、目指すサッカーを我慢強く続けることは大事だと改めて感じました」

 それは、端的に言えばボールを保持すること。その理由の一つに「守備」を挙げる。

「シーズンの初めからボールを大切にすることは意識してきました。結果が出ていないときはイージーミスが多くて、守備に回って体力を失って失点して、という流れになってしまいました」

 ボールが相手にあれば、奪い返すための努力にエネルギーを費やすことになる。それは非効率的である、という考えだ。

「攻撃しながら守備をする、というか、体力をしっかり整えながら試合を進めることができていて、とてもいい状態だと思います」

 アルベル監督も、ボールが相手になければ攻められることはない、と常に言ってきて、〈守るための攻撃的なボール保持〉の意識がシーズン後半に入ってしっかりと浸透している。

 とはいえ、もちろん、攻めるためでもある。そこに木本も関与できるのが、このスタイルの楽しさでもある。

「センターバックはまずは後ろでミスをしないこと、ボールを循環させてつないでいくことを意識しています。そこからチャレンジ的な縦のパスや、一個飛ばしのパスを出さないといけないし、広島戦ではチャレンジした縦パスでチャンスを作れました」

 広島戦では、21分のシーンがその最たるもの。自陣から木本が鋭い縦パスを送ると、センターサークル内でディエゴ・オリヴェイラがポスト役になった。これで前進して、最後は三田啓貴のセンタリングを安部柊斗が押し込もうとしたものの枠を外してしまうのだが、縦横のパスとドリブルを織り交ぜながら自陣からスピーディーに攻めきった攻撃は効果的だった。

「味方がパスコースに入ってくれる距離感やサポートの意識がよくなってきたので、今後も続けたいですね」

 ボール保持者がパスの「出口」をいくつも選べるようになってきたところにも、スタイルの浸透の手応えがうかがえる。同じセンターバックには木村誠二が復帰、距離の近いアンカーの候補には塚川孝輝も加わって、新たな組み合わせで進化していく。

「この選手だから特別に、ということはないですけど、中盤の選手に対してはサポートのところで自分も要求するし中盤からも要求を受けています。パスコースやサポートについては、センターバックもアンカーも話し合っています」

 守るための保持と攻めるための保持。その両方を司る存在として、技術の高い木本がセンターバックに構えることは、FC東京にとって大きな意味がある。