川崎フロンターレにとっては大きな勝利となった。6月18日の明治安田生命J1リーグで北海道コンサドーレに2度先行されながら、逆転で5-2という大勝をものにした。主役の一人は、途中交代で2ゴール1アシストの小林悠。ここまで苦しみながらも、自分を信じて結果を残した。

上写真=小林悠が歓喜のジャンプ! 苦しんだここまでの近況を吐露した(写真◎J.LEAGUE)

■2022年6月18日 J1リーグ第17節(等々力/18,960人)
川崎F 5-2 札幌
得点者:(川)家長昭博2、小林悠2、マルシーニョ
    (札)青木亮太、荒野拓馬

「そういう気持ち、大事ですよね」

 川崎フロンターレ5-2北海道コンサドーレ札幌。この勝利は、川崎Fを取り巻く人々に、さまざまな価値をもたらすものだった。

 まずは、チームにとって。中断前の2試合で敗れ、4年ぶりの連敗。3試合連続ノーゴールは実に10年ぶりと、超攻撃を掲げるチームには屈辱的。鬼木達監督が課す1試合3点以上のノルマはまだ1試合も達成してない。順位は3位に後退して、「定位置」の首位を見上げる場所で迎えた再開初戦。その不安をすべて吹き飛ばした。

 そして、小林悠にとって。今季はベンチを温める時間が長く、J1ではいまだノーゴール。ベテランだから、とあきらめるにはまだ早い。だから、驚きのバイシクルとこぼれ球に詰めた2つのゴール――言ってしまえば「派手」と「地味」の2種類のゴール――を決めたことは、背番号11にとって大きな大きな力になった。

 先発の知念慶が左足を痛めて、小林が58分に急きょピッチへ。すると66分に失点して1-2のビハインドになった。しかし、このゲームを押し切るきっかけになったのは、そのわずか3分後に同点に追いついたことだろう。69分、右から家長昭博、脇坂泰斗、チャナティップと渡って中央に迫ると、相手DFに当たり、脇坂にも当たってこぼれたボールに鋭く反応した小林が、右足で鮮やかなバイシクルシュートを決めてみせた。

「体が勝手に動きました。フォワードの感覚がそうさせたと思います。ただ、スリッピーだったのでコースにバウンドさせればいいと思っていて、それはいい狙いでした」

 ジャンプして体を寝かせて右足を高々と上げて振る体の動きは自然体。雨に濡れた芝生にあえてバウンドさせることで球足を伸ばしてコースを突く、という経験からなる判断は理知的。

 86分にはついに、この試合で初めてリードを奪うゴールを生んだ。しかも、ようやくたどり着いた「ノルマ」のチーム3点目である。

 レアンドロ・ダミアンが相手DFとGKのパス交換に対して2度追いで激しく迫り、マルシーニョが加勢して相手のミスを奪って中央へ、家長が狙ったシュートはDFにブロックされたが、そのこぼれ球を小林が落ち着いて左足で蹴り込んだ。

「その前にごちゃごちゃして入るかなと思ったけど、もしかして数パーセントですけどこぼれてくる可能性があるかなと。そういう気持ち、大事ですよね。そこに行くことが大事で、信じて詰めていたご褒美かな」

 サッカー少年少女に聞いてもらいたいコメントである。数パーセントでも信じて「そこ」にいること。サッカーの真理を体現したゴールになった。

 ここまでノーゴールだった不安を正直に漏らす。

「めちゃくちゃきつかったですね。こんなにゴールを奪えなかったのはなかなかなくて、年齢も重ねて少しずつそうなっていくものなのかな、受け入れなきゃいけないのかな、いや自分はまだやれる、という葛藤がありました」

 乗り越えるにはもちろんゴールが必要だが、その前にプレーすることへの意欲をかき立てるものがあった。

「つらかったですけど、でも本当に、家族もそうだし、毎試合『11』のユニフォームを着てくれるサポーターを見ると、信じてくれる人がいる限り、自分も自分を信じなければと思って」

 スタジアムに背番号11のユニフォームを着たあなたの思いが生んだ、2つのゴール。

「フォワードは1点を取ったら波に乗れるので、またここから取っていきたい」

 やはり真のストライカーの言葉は、力強い。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE