5月29日に行われた明治安田生命J1リーグ第16節で、鹿島アントラーズはFC東京とのアウェーゲームに臨んだものの、1-3で手痛い黒星を喫した。これで首位を明け渡すことになったが、中盤の舵取り役を任された樋口雄太は、エゴイズムをもっと出してチームを勝利に導くことを誓った。

上写真=中盤の守備で樋口雄太が複雑なタスクをこなしていく(写真◎J.LEAGUE)

■2022年5月29日 J1リーグ第16節(味スタ/28,436人)
FC東京 3-1 鹿島
得点者:(F)渡邊凌磨2、ディエゴ・オリヴェイラ
    (鹿)上田綺世

「本当に優勝を目指しているので」

 樋口雄太の言葉には、力があった。

「守備のところにフォーカスしたいと思います。2試合で7失点は、上に行くには必ず減らさなければなりません」

 前節でサガン鳥栖と4-4の打ち合いを演じ、今回はFC東京に1-3で敗れた。失点を重ねることが課題であるのは明らかで、中盤の底で舵取り役を任されている樋口としては責任を感じながらも、修正ポイントははっきり見えている。

「球際もそうですが、奪われたあとの切り替えで、一歩寄せ切るといったような細かいところの作業が必要になってきます」

 FC東京のアルベル監督は、樋口の周りにできるスペースで数的優位を作る狙いがあったと明かしている。中盤を司るアンカー役として青木拓矢が中央に立ちつつも、強度の高い鹿島に対してはインサイドハーフである松木玖生を青木の近くに立たせて中盤を強化した上で、樋口の脇に、もう一人のインサイドハーフである安部柊斗と右のワイドの渡邊凌磨を配置して、数的優位をもたらす設計だったという。

 ダイヤモンド型に近い配置で中盤を構成する鹿島は、ディフェンスラインの前の危険なスペースで、樋口の豊富な運動量と読みの鋭さによって強度を担保してきた。だが、かかる負担が大きい分、弱点にもなり得る。FC東京はそこを抜け目なく突いてきたというわけだ。

「誰がどこで奪い切るか。一番は奪われた瞬間の切り替えで一歩後手になったことが、今日の敗因だと思います」

 FC東京に奪われて素早く樋口の周辺のスペースに運ばれたことで、前に出た勢いをひっくり返された課題が残る。FC東京は主に鹿島の右サイド、アダイウトンの高速ドリブルで攻めてきた。

「個の能力がある選手が多い中で、もっと効率よく守れたところもあったと思います。少しディフェンダーの選手に任せてしまったところもあるので、今後の反省点ですね」

 ブエノがアダイウトンとの1対1に持ち込まれる場面は数多く、2点目はサイドで振り切られてから中央につながれ、3点目もブエノがドリブルに対してぎりぎりでスライディングしたものの、アダイウトンの足にかかってしまってPKを献上したことによる。そこをグループで守る方法もあるはずだ、という実感が樋口の悔恨につながる。

「監督からも、ボランチはチームのエンジンだと言われているので、そこが機能しなければならない。もっともっとエゴを発信していければと思います」

 鋭い読みとハードタックル、奪ってからの一瞬のミドルパスのセンスで鹿島を引っ張るナンバー14。敗れて首位から陥落したとは言え、入れ替わってトップに立った横浜F・マリノスとは1ポイントしか変わらないし、シーズンはまだ中盤戦。

「本当に優勝を目指しているので、そこに向けてみんなでやっていきます」と宣言する樋口が、チームに有益なエゴイズムをどんどん出していく。

現地取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE