勝利にぐっと近づく追加点は、車屋紳太郎のヘッドから生まれた。川崎フロンターレが5月14日の明治安田生命J1リーグでアビスパ福岡を迎えた第13節。55分に遠野大弥が先制した4分後に、右CKから車屋が追加点だ。練習の形とは「逆」の立ち位置で決めた一発。さらに怖い選手になるために手に入れたいものとは?

上写真=車屋紳太郎が今季J1初ゴールで吠える!(写真◎J.LEAGUE)

■2022年5月14日 J1リーグ第13節(等々力/16,704人)
川崎F 2-0 福岡
得点者:(川)遠野大弥、車屋紳太郎

「使い分けができれば」

 本当は逆、だったのだという。

 59分の追加点のシーン。脇坂泰斗の右CKに対してニアで家長昭博が跳び、その奥で高々と舞った車屋紳太郎のヘッドにぴたりと合って、リードを2点に広げた。車屋にとっては今季のJ1初ゴールを生んだ瞬間の、家長と車屋の場所が逆だったというのだ。

「狙い通りの形で、山岸(祐也)選手を挟む形は練習でやっていたんです。本来は自分が山岸選手の前に入る予定だったんですけど、前半からニアに寄っている感じだったので、そこで触るのは難しいと思ったので後ろで触りました。本来は僕とアキくん(家長)が逆だったんですけど、うまく2人で連係して取れたと思います」

 つまり、絶妙のアドリブだったというわけだ。これも、川崎Fが得意とする「相手を見て戦う」ことの発露。

 鬼木達監督はACLで敗れてJ1リーグ3連覇と国内3冠にターゲットを絞ったいま、改めて攻撃サッカーの質を高めることに着手している。その一環として、センターバックに攻撃への関与を高めるように促している。

 福岡は前半はフアンマ・デルガドと山岸、後半はルキアンと山岸の2トップが守備に従順で、川崎Fのセンターバック、車屋と谷口彰悟に対して厳しいチャージをかけてきた。何度か谷口が山岸に捕まるシーンもあったが、そこを回避すれば攻撃の厚みが増していく。

「前半は相手もかなり僕たちのセンターバックからの縦パスを狙っていて、特徴を出しづらい難しさはありました。でも、うまく距離を縮めたりアンカーの(橘田)健人と短いパスをつなぎながら、どこが空いてくるかスペースを見ながらできていたので、そこは良かったと思います。こういう締めてくる相手には間を出せるパスを通さなければいけないので、自分はそこをもっと成長させないと」

 もちろん、いつでもパスを狙えば相手に読まれる。そこで、車屋が得意とする持ち運びが生きてくる。

「パスだけだと相手を打開することができないですから、(ドリブルで相手の)フォワードのラインを越えることが何度かできたので良かったです。そこに加えて、縦パスを入れられればもっと怖い選手になれると思います」

 左利きで、スピードもあって、パスとドリブルを使い分けるセンターバック。貴重な存在だ。

「(橘田が)2トップの間に立ってくれるだけではがせますし、そこで2トップが間を締めてくれば僕が運べばいい。そこで僕に寄せてきたら健人があきますから、相手の動きを見て使い分けができればと思っています」

 65分にその好例がある。車屋と谷口で横パスを交換し、谷口が前の脇坂へ。この短いパスで2トップのプレスを逃れると中央の橘田があいた。フリーで前を向いた状態で脇坂から預かると、目の覚めるようなスルーパスを送り込んでみせた。マルシーニョにはわずかに合わなかったが、プレス回避から一気に突き刺す攻撃は、また新たな魅力をこのチームに加えてくれる。

 車屋は開幕戦で肩を負傷したことで、およそ3カ月ぶりの等々力陸上競技場でのプレーになった。

「久々の等々力でどれだけできるか不安もあったんです。でもこうやって点を取ることができて、サポーターの皆さんと一緒に喜べてうれしいです」

 これまでできなかった分は、これから何度でも喜べばいい。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE