名古屋グランパスの長谷川健太監督が、取材の中で今月1日に亡くなったイビチャ・オシム氏とのエピソードを明かした。清水エスパルスの監督時代に対戦し、忘れられない言葉を受け取ったという。

上写真=取材の中でイビチャ・オシム氏に感謝の思いを述べた長谷川健太監督(写真◎J.LEAGUE)

いろいろな影響を受けました

 オシム氏の訃報を受けて、取材の中で質問された長谷川監督が思い出を語った。

「Jリーグの1勝目がオシム監督との対戦でした。清水時代、開幕6試合で全然勝てなくて、7戦目のホームでオシムさんのジェフと対戦した。もう開き直ってぶつかっていくしかないと思って、確か2ー1のスコアで初勝利を挙げられました」

 2005年、清水エスパルスの監督に就任した長谷川新監督は開幕から4分け2敗で6戦未勝利の状態が続いていた。迎えた7節の相手はイビチャ・オシム監督が率いる千葉。そこで2-1の勝利を飾った。

「その試合後の会見でオシムさんが『現状のエスパルスは苦しんでいるが、長谷川監督の進むべきサッカーは決して間違っていない』ということをあえて発言してくださった。負けて相手の監督をフォローするなんてことは、到底できないことだと思います。しかしオシム監督は序盤戦でなかなかうまくいっていない心境を汲んで、負けたにもかかわらず、フォローしてくださいました。ある程度、認めてくれるような発言をしてくれました。勇気づけられましたし、今もこうして監督を続けられています。直接、お話する機会はなかなかなかったですが、いろいろな影響を受けました」

 オシムさんとのエピソードを明かし、感謝の思いを口にした。そして日本サッカーに残した功績についても言及。

「やはり、リスクをかけないと点数は取れないよと。その一つに(ボールホルダーを)ガンガン追い越していくとか、どうやってリスク管理をチームとしてやるべきかとか。相手によって選手たちが柔軟に自主的に考えていくとか。選手たちが臨機応変にグラウンドの中で考えなければいけないという部分をトレーニングの中で状況をつくることであったり。こんなサッカーがあるんだ、と感じましたし、マンツーマンで古典的にも思えるんですが、人が追い越して、入れ替わっていく。そのアグレッシブなサッカーは、それまでのサッカー観を変えた。何というかオシム監督のジェフとやるときには、守るというより攻めなきゃ失礼だというほどの思いを抱いた記憶があります」

 オシム監督は考えて走ること、リスクを冒すことの重要性を常々説いていた。そのサッカー観は相手の指揮官を大いに刺激していたということだろう。

「多色ビブスでの練習は何回かやったことがあります。目から入る情報をいかに脳で処理するのか、トレーニングからそういう刺激を与えることを、本当に良く考えられていた。あとは3対3をフルコートでやったりとか、いろいろなトレーニング方法は広く一般、Jリーグの監督などにもどんな練習しているんだろうと思わせていました。いろいろなところで、いろいろな形で参考にさせていただいた」

 長谷川監督の言葉からも、オシム氏が多くの指揮官に多大な影響を与えていたことがわかる。