FC東京は今年、『変革』に大きく舵を切った。継続して結果の出せるチームになるべく、昨季までとは異なるスタイルを求め、スタッフも刷新。新たに指揮を託されたのは昨シーズンまで2年間、アルビレックス新潟を率いていたスペイン人のアルベル・プッチ・オルトネダ監督だ。注目の指導者にサッカージャーナリストの小澤一郎氏がインタビュー。ここまでのチーム作り、そして自身の母国であるスペイン出身選手、指導者がいる4月6日の神戸戦、10日の浦和戦に向けての思いを聞いた。

上写真=今季をFC東京の変革元年と位置付け、チーム作りを進めるアルベル監督(写真◎J.LEAGUE)

取材・文◎小澤一郎(サッカージャーナリスト)

土台作りの1年。競争力の高さには満足

――今季序盤(3月31日、7試合終了時点)の総括は?

アルベル監督 順調です。シーズンが始まる前から話している通り、今年は移行期のシーズンととらえています。クラブとして体制が替わり、私が監督に就任し、サッカーのスタイルも大きく変わりました。近い将来、クラブとして持続的な成功を達成するための土台作りの一年となります。チームを預かる監督として選手たちの学ぶ意欲、チームとしての競争力の高さには満足しています。

 ただ、サッカーのスタイルが変わるわけですので選手たちは一夜で適応できません。川崎との開幕戦ではコロナ陽性者が出たアクシデントの中、良い内容のサッカーを披露しました。負けましたが勝ちに値する内容だったと思います。その後もチーム内で欠場者が増加したこと、活動休止期間など苦しい時期もありましたが、選手が戻ってくるにつれて結果も付いてくるようになりました。サッカーの質的にはもちろんまだ満足できるレベルにはありませんが、少しずつポジティブな変化を見せていると思います。

――サッカー面での改善点は?

アルベル監督 私が来る前のFC東京は今とは全く異なるスタイルのサッカーでした。スタイルに良し悪しはありませんのでネガティブには受け取ってもらいたくありませんが、以前は比較的低いディフェンスラインでカウンター志向のサッカーを展開していました。それが今季からはボールを支配し、試合の主導権を握るべく、攻撃では敵陣深い位置まで押し込む、守備では高い位置からハイプレスを繰り出すスタイルに大きく変わっています。支配率については7戦で相手より下回ったのは2試合のみ。うち1試合は退場者の出たC大阪戦です。シュートチャンス、決定機も毎試合多く作っています。よって、必要なことは持続性です。ハイプレスも実行できていますが持続する必要があり、ボールを保持しながら守る時間も増やしていかなければいけない。また、ボール保持局面ではより鋭くゴールに迫る前進も実行できなくてはいけません。

――神戸、浦和との2試合はどういう試合になると思いますか?

アルベル監督 神戸の監督交代についてはサプライズでした。リュイス新監督のことは知っています。彼もカタルーニャの出身です。ただ、彼はバルサ派閥ではなくエスパニョール派閥のキャリアを持っています。そのためスリーラインをコンパクトに保ち、ミドルゾーンにセットをしてカウンターを狙うサッカーの理解があります。もちろん、ボール保持のサッカー理解も高い派閥ですので、神戸のような質の高い選手を揃えたチームの指揮には合っているでしょう。まだどういうサッカーをするのかはわかりませんが、間違いなく難しい試合になると思います。

 浦和についてはリカルド・ロドリゲス監督が昨季から指揮を執り、彼は4-4-2、4-2-3-1のシステムを用いてコンパクトなサッカーを志向する監督です。ボール保持に強いこだわりはなく、競争力とスペースを重視しています。彼のチームはいつもハードワークを厭わない献身的なサッカーをしますので、勝利するのはとても難しい。J2で彼の徳島と対戦経験がありますが、とても難しい相手でした。神戸、浦和との対戦では、もちろん試合毎、相手毎に対策を練りますが、同時に自分たちのプロセスを発展させるための視点も持って戦います。

イニエスタは素晴らしい人間でした

FC東京の選手たちは吸収力が高く、ゼロベースで教える必要がないと話すアルベル監督(写真提供◎FC東京)

――今Jリーグにいるスペイン人の選手、監督とは定期的に連絡を取り合っていますか?

アルベル監督 リュイスとは彼がFC今治の監督時代からよく連絡を取っていました。先日、大きな怪我を負ったセルジ・サンペールとも連絡を取り合っています。彼のことは幼い頃からバルサの育成組織で知っていますし、もちろんイニエスタ、ボージャン、浦和のリカルド監督も久々の再会となるので対戦を楽しみにしています。

――イニエスタとの個人的エピソードは何かありますか?

アルベル監督 特別なエピソードはありません。もちろん、私がバルサの育成組織で働いていた時にはトップチームの選手として色々な話をしましたし、ラ・マシア(FCバルセロナの育成組織の愛称)の選手たちに対しても常に謙虚に、優しく接してくれる素晴らしい人間でした。

――東京での新生活は快適ですか?

アルベル監督 はい。ただ、新潟の生活も素晴らしいものでした。温かい人たちに囲まれ、家族全員がとても満足した生活を送っていました。東京での生活はもちろん新潟とは違いますが、まずは交通渋滞の多さに驚かされました。渋谷や都心では大通りも多いですが、東京はどこも道が狭いですよね?そんな狭い道に車やバイクのみならず、自転車やスケボーが入り乱れて走るわけですから、まさに「カオス」です(笑)。でも、日本ですからカオス内に規律があります。東京ライフではそこに一番驚きました。

――今季はJ1で指揮していますがJ2との違いは感じますか?

アルベル監督 違いは明らかです。選手の質、特に選手のメンタリティとフィジカル面ではより欧州に近いと言えます。カップ戦や代表戦など試合数が多いというのもありますが、選手は肉体的にもよく鍛えられていますし、フィジカル的な競争力もあります。もちろん、欧州トップレベルと比較した時にはまだ差はありますが、判断力ある選手がそろっていますし、J1での指導においてゼロベースでコンセプトから教える必要はありません。

――FC東京のサポーターで一番驚いたことは?

アルベル監督 一番は私のスピーチを素早く理解してくれたことです。就任当初から私は一貫してプロセス、時間が必要だと話しています。受け取り方によっては、スタート前から負けた時の言い訳を披露しているように聞こえるかもしれませんが、サポーターの皆さんはそうは受け取らなかった。近い将来、本当の意味での成功を収めるためにはプロセスが重要で、そこには時間がかかることをすぐに理解してくれました。

 皆さんの知性の高さには本当に驚かされました。普通は就任直後から勝利やタイトル、昇格といった目に見える結果目標をスピーチで宣言するものですが、私のスピーチはその真逆で「産みの苦しみがあります」と伝えています。FC東京が本当の意味で、東京という大都市、首都に相応しいクラブになるために全ての面で変革とプロセスが必要だということをサポーターの皆さんは、理解してくれているのでそこには本当に感謝しています。

◆プロフィール
アルベル・プッチ・オルトネダ◎1968年4月15日生まれ、スペイン出身。FCバルセロナで長く育成部門の責任者として活動し、2014年からはガボン代表のテクニカルディレクターやアンゴラのペトロ・デ・ルアンダのアドバイザーを務めた。2018年にニューヨークシティFCのヘッドコーチとなって勝手知ったるドメネク・トレントを支えた。2020年からアルビレックス新潟を率いて魅力的なサッカーを実現。今季から変革を目指すFC東京の監督に就任した。

◆FC東京:4月上旬の注目ゲーム!
▼2022年4月6日(水):19時開始/@味の素スタジアム
・明治安田生命J1リーグ第7節
FC東京 vs ヴィッセル神戸
▼2022年4月10日(日):14時開始/@味の素スタジアム
・明治安田生命J1リーグ第8節
FC東京 vs 浦和レッズ