FC東京にとって、アウェーの横浜F・マリノスには重要な意味がある。昨年11月の0-8の屈辱的敗戦を払拭する強い思いだ。監督も選手も変わる中で引きずってはいないが、アルベル監督のポジショナルプレーをぶつけるには最高の相手だ。

上写真=アルベル監督が植えつけるポジショナルプレーでは、判断の早さがカギを握る(写真提供◎FC東京)

「落とし込むには時間が必要」

 プレースピード。FC東京のアルベル監督が頻繁に口にするキーワードだ。その言葉には、どんな意味が含まれているのか。

「ポジショナルプレーというのは、一人ひとりの選手のポジション取りが重要になってきます。しかし、選手がいい立ち位置を取っていたとしてもスピードが遅くなったとしたら、相手をうまく揺さぶって適切な形から崩すことは不可能になってしまいます」

 正しいポジションとは、選手が複数のレーンに点在してそれぞれが角度を作ることだったり、パスコースを連続して作れるような場所を探したり、相手を引き連れてスペースを作り出したり、空いたスペースに入り込んだり、と多岐にわたる。相手との位置関係も重要だ。ここまではいわば、空間に関する条件。

 アルベル監督の言葉からは、そこに時間に関する条件がかけ合わさることで初めて「ポジショナルプレー」が成立するという考えであることがわかる。

 単に走るスピードやパススピードという物理的な速さもあるが、より強く求められるのは、考えるスピード。

「プレースピードは判断のスピードと強い関連性があると思います。ボールを受ける前に適切な判断をすでに下していないと、速いスピードでプレーできません。ボールを受けてから見て判断すれば遅くなる。ですから、そういう形のプレースピードを重要視しています」

 それ自体は決して目新しいものではないが、高い強度が加わる中で考える速さを連続していく、つまり考えない時間が極端に少なくなるのが現代的と言えるだろうか。考え続けなければ、プレースピードは上がらない。

「ポジショナルプレーではない他の方法では、もしかしたらプレースピードよりもマークを外す選手の動きそのもののスピードが大事になるかもしれません。でも、ポジショナルプレーがうまく機能するためにはプレースピードが必要不可欠なものになるのです。その意味でこのコンセプトを重要視して選手に伝えています」

 シンプルに前向きの選手にボールを渡して前進していくという具体も、プレースピードに関わってくる。視野を広く多くの情報を集めたほうが判断を素早く回転させることができるからだ。選手たちはことあるごとに「前向きの選手を使う」というフレーズを口にしていて、この意識が十分に浸透していることがわかる。

 それを、横浜F・マリノスという強豪にぶつけるときがやってきた。同じく攻撃を是とするトリコロールが相手なら、思う存分、いまの最大限を解き放つことができる。

「まさしくプレースピードが重要で、攻守の切り替えのスピードも重要です。同時に、遅攻できちんとポジションを取った場合にブロックを打開するときにも、速さが大事になります。パススピードも含めて、スピードを速くすればするほど守備ブロックはずれてきます。そうすれば、効果的な攻撃を構築することが可能になる。ただ、落とし込むには時間が必要です。トレーニングと試合を重ねることで改善していきます」

 とはいえ、勝ちにこだわるのもアルベル流。ここまですべて1点差でしぶとく3連勝を飾っているのは偶然ではない。昨年は0-8の屈辱的大敗を喫した日産スタジアムで迎えるリベンジの機会。サポーターはあのときの分も快哉を(声には出せないが)叫びたがっている。