川崎フロンターレにゆかりの選手たちで決めたと話題になったのが、カタール・ワールドカップ出場を決めた最終予選のオーストラリア戦のゴールだ。2点を決めた三笘薫らを導いてきた鬼木達監督も、思わず興奮が最高潮。そして、次の実力派を育てるために、日々取り組んでいく。

上写真=鬼木達監督はホーム26戦無敗という新記録を作るために、C大阪戦に臨む(写真◎スクリーンショット)

「選手が迷わずプレーできる環境を作れれば」

 山根視来が右サイドで受けて、ペナルティーエリア中央にもぐり込んだ守田英正とのパス交換から抜け出し、マイナスへ。逆サイドから入ってきた三笘薫が右足でプッシュ!

「久々に興奮して家でガッツポーズが出ましたよ」

 川崎フロンターレの鬼木達監督も大喜びだ。3月24日のカタール・ワールドカップ最終予選、オーストラリア戦で日本が決めた先制ゴールは、「フロンターレトリオ」で決めきったと大きな話題になった。守田は2020年まで、三笘は21年夏まで鬼木達監督の下で主力としてプレーしてリーグ制覇に貢献し、山根は現在も3連覇を狙うチームで戦っている。

「自分たちのチームから日本代表に貢献したいという思いに変わりはありません」と鬼木監督。

「いま受け持っている選手も、違うチームに行った選手も代表のために活躍してくれてうれしいですし、それに自分のチームがどうこうとか関係なく、単純に日本が勝つために点を取ってくれた瞬間に興奮しました。日本の得点という意味でうれしかったし、そこで関わった選手たちが頼もしく見えましたね」

 鬼木監督を一人のサッカー少年(?)に戻してしまうような活躍だった。

 そんな鬼木監督にとっては「次」を輩出することが仕事の一つになる。カタール・ワールドカップで、さらにその先の未来で日本を代表する選手を育てるために、日々取り組んでいる。4月はJ1で3試合を戦ったあとにマレーシアに飛んでAFCチャンピオンズリーグのグループステージを中2日で6試合もこなす超過密日程。昨年も同様のスケジュールで苦労しているが、そこで必要なのはやはり総合力だ。3月を終え、今季加入した選手もそろそろなじんでくる頃。

「まだ遠慮している選手は見受けられますね」

 鬼木監督は遠慮なく、もっともっと自己表現することを求めている。

「ただもちろん、なかなか簡単な作業ではないとは思っています。今年に限らず毎年あることで、自分なりに選手がもっともっと迷わずプレーできる環境を作れればいいですけど」

 選手に要求する前に自分に矢印を向けて、監督として何ができるのか考えるのが、鬼木監督の流儀。

「自分たちはずっとここにいるからわからないんですけど、勝っているチームに入るのは簡単ではないみたいなんです。だから、どうしても合わせようとするところはありますね。ただ、それがすべて悪いわけではないですし、見失わずに自分の良さを出してくれるように持っていければと思います」

 J1では3月までの7試合で21選手がプレーしている。その中には出場時間が短い選手もいるし、あと10人がまだピッチに立っていない。総合力とはいわば、そんな彼らの底力のことを意味する。「すごくいいんですよ」と、鬼木監督は試合に出ていない選手たちの目の色が変わっていることを喜ぶ。

「すべての選手が準備できていますし、気持ちも感じます。見極めるのが難しいですね。練習のための練習にはしないようにしなければいけないですし、日々のその努力が公式戦で結果に残るようなトレーニングを作らなければいけない。緊張した雰囲気の中でプレーできるような、突き詰めていけるような形に持っていきたいですし、本人たちにもそこは話しながらやっています」

 そんな「プレーヤーズファースト」の厳しい視線が、いつかワールドカップ予選や本大会、もしくはヨーロッパのクラブで活躍するような選手を生み出すのかもしれない。