FC東京は今週末の3月26日、ホーム・味の素スタジアムで『JリーグYBCルヴァンカップ:グループステージ第3節』、湘南ベルマーレ戦に臨む(15時開始)。1週間試合の間隔が空いたことで、今回は『リーグ戦』組の出場も想定される。今季からチームに加わった『ルヴァンカップ』に愛された男、過去に2度優勝を経験している木本恭生にじっくり話を聞いた。

上写真=今季加入ながらピッチで存在感を示しているFC東京の木本恭生(写真◎J.LEAGUE)

プロ2年目の飛躍、サッカー寿命を延ばすゴール

――ルヴァンカップは木本選手にとってどんな大会ですか。

木本 簡単に言えば、人生を変えてくれた大会です。今の自分があるのは、このルヴァンカップがあってこそだと思っています。だから毎年、楽しみですし、タイトルを獲りたいと思って臨んでいます。

――人生を変えたとは?

木本 セレッソ大阪で迎えたプロ2年目のシーズンでした。当初、チームはリーグ戦とルヴァンカップとで別々のチームで戦っていく感じでした。僕は1年目に公式戦に全然出られていなかったのですが、その年のルヴァンカップでチャンスをもらって結果を出すことで、次につなげることができました。

ーー2017シーズンですね。

木本 監督が尹晶煥さんに代わったばかりで選手をフラットに見てもらえる中で、自分としてはキャンプからいいプレーができていてリーグの開幕戦に出られるかもしれないと思っていました。ですが、紅白戦の出来が良くなくて結局開幕はベンチ外。でもルヴァンカップの開幕戦ではチャンスをもらえて、横浜F・マリノスが相手でしたが、自分がゴールも決めて勝つことができました。そこからリーグ戦でも出られるようになりました。2年目で結果を出さなければとプレッシャーも感じていましたが、そこで一つ結果を出せて、結局、その後はルヴァンカップで決勝まで全13試合、すべてに先発することになりました。

――多くのチームがそうだと思いますが、ルヴァンカップは若い選手が経験を積む機会になることも多く、トーナメントを勝ち上がっていくにつれていわゆる主力が出場し、ルヴァン組が出られなくなるケースもあります。2年目の木本選手は、まさにこの大会で立場を変えたわけですね。

木本 もちろん、流れやタイミングもあったと思います。1stレグ、2ndレグがある決勝トーナメントの試合で、1stレグはルヴァン組が出て、2ndレグはリーグ組が出るということもありました。ただ、そのタイミングで自分はリーグにも絡んでいて、そういう巡り合わせで出続けられた。それと、ルヴァンカップで結果を残した選手を使おうという空気もあった中で、ちょうど点を取ってアピールができました。

――2017年で印象深いのはガンバ大阪との準決勝です。2-2で引き分けた1stレグで2点目、2ndレグではアディショナルタイムに決勝点をスコアしています。

木本 もちろん相手が大阪のチームということもあって気持ちが入っていました。ただ1stレグでまず1点を取れたんですけど、2-2に追いつかれてしまって、苦しい状況になってしまった。それでもクラブとして初めての決勝に進みたいという思いをみんなが持っていて、2ndレグのアウェーゲームにもそういう強い気持ちのまま臨めました。そこでたまたま自分が点を取れて、チームを決勝に導けた。良い雰囲気の中でプレーさせてもらえて、いま振り返っても本当に自分にとって大きな試合だったと思います。

――ダービーでしたし、注目度も高かった。

木本 2ndレグのあのゴールで、セレッソのサポーターの方に認めてもらえたというか、覚えてもらえたというのがあります。あのゴールが、自分のサッカー寿命みたいなものを伸ばしてくれた。多くのサポーターの方に今でもあのゴールのことを言ってもらえますから。

――実際、あのゴールでクラブの歴史が塗り替えられました。そして初めて決勝の舞台に上がり、タイトルを手にしました。

木本 それまではタイトルと言われても「本当に獲れるのかな?」とか、どこかで「近いもの」とは思えませんでした。でも、優勝できたことで、自分の中でも身近なものになった。そのシーズンは天皇杯も獲りましたが、ルヴァンカップを獲ったことによって他のタイトルも獲りたいという欲が出てきたことを覚えています。プレーが劇的に変わることはないと思いますが、気持ちの面の変化がありました。

――タイトルがタイトルを呼ぶということですね。そして昨シーズンは名古屋グランパスの選手として決勝の舞台に上がり、タイトルを獲得しました。

木本 それほど緊張せずにやれたのは、決勝を経験していたこともあるとは思います。ただ、プロとしてキャリアを積んできたということも関係しているかなと。それから去年の場合は、チームとして勝負に徹底的にこだわっていた点も大きかった。

――どういうことでしょう。

木本 ACLで敗退して帰国して、難しい状況のなかで、内容はどうでもいいということではないですが、とにかく勝つためにみんなが行動していました。それが決勝まで行けた大きな要因だと思います。帰国後のバブルとかもあって、苦しいなかでみんなが犠牲を払っていたし、チームが一つになっていた。とくにトーナメント戦は苦しい戦いが続きます。去年で言えば、準決勝のFC東京戦の2ndレグは、一度リードされる展開になり、敗退する状況に追い込まれました。それを乗り越えられたのはチームが一つになっていたから。そうでなければ、無理だと思います。カップ戦は上に行けば行くほど、チームのまとまる力が問われると実感しました。

――そのFC東京戦は、1stレグでゴールを決めました。

木本 そうですね。いまそのとき対戦したチームにいるわけですけど(笑)。

――カップ戦の勝負どころでゴールを決めている印象もあります。

木本 リーグは全然、取ってないんですけど(苦笑)。確かにカップ戦で取っているのでそういう印象もあるかもしれない。2年目のシーズンは自分でも「持っているな」と感じていましたし、去年も唯一点を取れたのはルヴァンカップだったので。

――今年もルヴァンカップでゴールを期待されていると思います。

木本 応えられるように、頑張りたいですね。

今は取り組んでいるのは可能性を感じてもらえるサッカー

――今年、FC東京に入り、昨年までの名古屋でプレーしていたスタイルとは大きく異なると思います。アルベル監督が目指すサッカーについて、どんな印象を抱いていますか。

木本 ボールをすごく大切にする監督だというのは分かっていたのですが、ボールを持ちながらもゴールを目指すところに意識がありました。その点はイメージと少し違いました。ボールを大切にするとなると、後ろでパスを回すことが増えたり、ショートパスが増えたりという考えを自分は持っていましたが、監督は「ロングボールをもっと使え」とか「ゴールに直結するようなパスを出せ」と、後ろの選手に求めます。サッカーなら当たり前かもしれませんが、そういう意味で、ボールを大切にしながらも、それだけじゃないと感じます。

――ボランチでもCBでも一番、まず遠いところを見るという感じでしょうか。

木本 そこが選択肢にしっかり入っていれば、近いところも見られるので。長いボールばかりになるとボールを失うケースも増えてくるし、当然、そのバランスを取ることが必要です。最初の頃は少し難しかったですね。でも今は段々と慣れてきました。その使い分けがもってできるようになれば、チームとしてもより魅力あるサッカーになると思いますし、ゴールももっと入ると思っています。