槙野智章はやはり、持っている。2月23日の明治安田生命J1リーグ第9節で、ヴィッセル神戸は浦和レッズとアウェーで対戦。槙野は先発出場して、87分に貴重な同点ゴールを決めてみせた。連敗を阻止しつつ、古巣に早々に恩返しを済ませた。

上写真=槙野智章が「敵」として、埼玉スタジアムで決めてみせた(写真◎J.LEAGUE)

■2022年2月23日 J1リーグ第9節(埼スタ/19,446人)
浦和レッズ 2-2 ヴィッセル神戸
得点者:(浦)松崎快、柴戸海
    (神)武藤嘉紀、槙野智章

「あのクロスで決まった」

 やっぱりこの男は決めるのだ。槙野智章が昨季まで所属していた浦和レッズを向こうに回し、かつてのホームスタジアムで、ヴィッセル神戸に貴重な勝ち点1をもたらす同点ヘッドを決めてみせた。

 三浦淳寛監督が明かしたのは、左からクロスを上げたアンドレス・イニエスタと槙野の目が合った、というエピソード。試合後のロッカールームで、そんな話が出たという。

 だから槙野は、この87分のゴールはイニエスタのクロスで決まったと賞賛する。

「(イニエスタの出場は)今日は時間が限られていたので、試合に出たときにはセットプレーも含めて見ているよと言われたんです。動けば出してくれるから、あのクロスで決まったようなものです」

 武藤嘉紀が10分に先制しながらあっという間にひっくり返され、終盤まで1-2でリードを許す展開。古巣はやはりやっかいな相手だった

「対戦してみて、率直に強いな、嫌だなというのが感想ですね。成熟しているし、どうボール動かしたら相手が嫌がるのか、選手みんなが分かっています。守っていて、嫌だな、と思ってました。退場するまでは」

 58分に浦和の明本考浩が退場して数的優位になったところから、流れが変わった。神戸が猛攻を仕掛け、中央を固める相手に左右にボールを動かして穴を探り、クロスで刺す。

「(退場してから)落ち着いて進めてボールを動かせましたし、前がかりに点を取りに行った姿勢がゴールにつながったと思います」

 嫌だな、と思ったのは、浦和の方だろう。これまでは頼もしい味方として、昨年ならルヴァンカップ準々決勝第2戦で川崎フロンターレを下す一発を、天皇杯決勝ではタイトル獲得をものにする決勝点を、ともにアディショナルタイムに決めてくれた。その得点力を、敵として埼玉スタジアムで見せつけなくても…。

「相手の嫌なところに入っていくことが重要で、入っていけばアンドレスがピンポイントでパスを出せますからね。それが結果に結びついたなと」

 三浦監督がまるで浦和の気持ちを代弁するように、そう表現した。

 埼玉スタジアムでは3年ぶりにアウェーのファン・サポーターを迎え入れたという。その神戸の仲間たちが陣取る目の前で決めるあたりも、憎い。

「(イニエスタとは)普段の練習からもそうですし、練習場のロッカーも近いのでコミュニケーションが取れていますから」とは槙野。この短期間でぴたりと息を合わせるあたり、さすがは自慢のコミュニケーション能力の持ち主である。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE