上写真=家長昭博は浦和戦、FC東京戦とフル出場。今年も頼りになる(写真◎小山真司)
「マイペースに、自然にできれば」
川崎フロンターレの「いま」を象徴するシーンだっただろう。2月18日、FC東京との開幕戦でゴールを襲ったシーンだ。
11分、左センターバックの車屋紳太郎が、絶妙のコースとスピードのミドルパスを前線に送った。左からマルシーニョが快足を生かして飛び出し、ワンタッチで中央へ。レアンドロ・ダミアンが待ち構えたが、その直前で小川諒也に触られた。しかしクリアは弱く、こぼれたところにはちゃんと家長昭博がいた。右足のフィニッシュはエンリケ・トレヴィザンにブロックされるのだが、家長はチームの狙いをこう話す。
「カウンターで前の3人でシュートまで行けるチャンスでした。左からクロスが入って、ダミアンが先にゴール前に入ってくれて、その後に自分が続いて入っていって、こぼれ球を狙いました。監督も速く攻められるときは攻めたいと言っているので、それを意識して取り組んでいます」
川崎Fの2022年の進化の種は「カウンター」にある。相手が嫌になるぐらいパスをつないで崩し切るイメージが強いから、意外に思われるかもしれない。でも、速く攻めて決められればそれに越したことはない、というのが第一優先事項である。
「チームとして取り組んでいる方向によって、カウンターや長いボールは自ずと増えてきています」
家長が2022年版のフロンターレをそう説明する。ただし、手応えはまだないという。「その代償もあります。両方できたらいいけれど、いまは長いボールや裏へのボールが増えていて、いい部分もあれば悪い部分も出ている、というのを感想として持っています」。分析は冷静だ。
J1の3連覇とAFCチャンピオンズリーグの優勝が期待されるシーズン。でもまだ始まったばかりだから、「マイペースに自然にできれば」とゆったり構える。この人ならではの余裕が説得力を持ち、チームに落ち着きをもたらす。
富士フイルムスーパーカップ2022の浦和レッズ戦、J1第1節のFC東京戦と2試合を終えただけで、厳しいマークに遭っている感触は「まだありませんね」と余裕だ。とはいえ、浦和では馬渡和彰が激しく足元に食らいついてきたし、FC東京でも小川諒也が対峙してきた。そんな相手のパワーを利用してしまうのも、家長らしさ。
「流動的にチームで動き出すと、誰かと誰かがずっと戦うことがなくなるので、それがチームとしてベストだと思います。これまで取り組んできたことを継続しつつ、誰かが誰かにマークされるような決まったシチュエーションがなくなるように流動的に動ければいいと思っています」
相手が力を込めて向かってくることが、流動性を生むきっかけになっている。ピッチを漂う背番号41が見せるのは、まるで水が流れるかのようなふるまい。どんなところにも顔を出し、狭いところでも広いところでも苦もなくボールをさばき、攻撃を組み立てていく。
「ボールを握る時間、ゲームをコントロールする部分はまだまだだなと」
速く攻める意識とじっくりと組み立てていくリズムのバランスが取れたときに、川崎Fはまた一つ階段を上る。その中心には、必ず家長がいるだろう。