注目のルーキーがインパクト十分のプロデビューを果たした。2月18日、川崎フロンターレとFC東京の「多摩川クラシコ」で明治安田生命J1リーグが開幕。FC東京の松木玖生が開幕スタメンを勝ち取って、71分までプレー。最初の試合とは思えないプレーで強い印象を残した。

上写真=松木玖生はデビュー戦で貫録のプレーだった(写真◎小山真司)

■2022年2月18日 J1リーグ第1節(等々力/17,544人)
川崎フロンターレ 1-0 FC東京
得点者:(川)レアンドロ・ダミアン
    (F)なし

「39日後」のプロデビュー

「高校生」などどこにもいなかった。間違いなく、背番号44はプロだった。

 高校サッカー選手権で青森山田高のキャプテンとして、圧倒的な強さで1月10日に頂点に立った松木玖生が、そのわずか39日後、FC東京の一員として堂々とプロのピッチに立った。

「この試合に臨むベストメンバーを選んだ中に、彼がいました」とアルベル監督。「大胆で勇気を持ったプレーをしてほしい」と送り出した。

 その通り、大胆で勇気を持ったプレーだった。松木自身に緊張はなかったという。「最初にボールが足につかなかったところは予想外だったので、次は慣れてくるので修正したい」と小さなミスも認めた。それでも、20分を過ぎたころからは「まだ高校生の選手」をピッチの中で探すのは困難だった。

 24分には永井謙佑をワンツーで走らせて中央を割り、最後は右から走り込んだレアンドロの絶好機を演出した。28分には永井が左から折り返し、中央でこぼれたボールを左足でダイレクトシュートを放った。GKチョン・ソンリョンに止められて、吠えた。43分には左サイドバックの小川諒也から届いた斜めの浮き球のパスを、左足で収めてすぐにディエゴ・オリヴェイラへ。シュートはわずか右に切れるが、またもやビッグチャンスを生み出した。

 試合前日に、FC東京のアルベル監督は「まだ早い」と話していた。

「もちろん、高校サッカーに対するリスペクトはありますが、プロの世界とはレベルの差があります。適応しなければいけないし、それには時間が必要です。彼も他の選手と同じように多くの改善点を抱えています。彼には強いメンタリティーという武器があるので、それを維持しながら改善点に取り組んでほしい」

 デビュー戦を終えたいま、間違いなくそれはブラフだったのだろうと思わされる。

 プレーエリアに、松木らしさが表れていた。FC東京は左では永井が幅を取るものの、右サイドでは右ワイドのスペースが空いていて、FWのレアンドロ、インサイドハーフの松木、サイドバックの渡邊凌磨が入れ代わり立ち代わり、入っていく流れになった。だから、レアンドロが中央に寄りがちになっても、賢く右の外に出ていった。

「凌磨くんとは練習試合や練習で守備の行き方のところで声を掛け合ってきましたし、レアンドロが一番やりやすいポジションを取ろうしていて、レアンドロが中に入れば外に、外にいれば中に入って、というように、レアンドロを見ながらサッカーすることを今後も続けたいと思います。その上で、もっと自分を出したい」

 勢い余って50分には登里享平の足を刈って、プロ初の警告を受けた。最後は塚川孝輝と接触して左足を痛めたこともあって、72分でピッチを去った。それでも、インパクトは十分だ。

 チャナティップとの競り合いでボールを強奪するシーンにも「いつもと同じようにやっただけ」と十年選手のクールさだ。ゴールへ向かう姿勢も存分に出したが、「開幕でゴールを取りたかったし、決めるか決めないかの質のところは練習から高めないと」と自らに矢印を向けた。

「18歳の若手がプロの世界でデビューを果たしました。彼のプレーに満足していますし、称えたいと思います。彼はもっと成長しなければいけないけれど、遠くない将来に日本サッカーに喜びを与える選手に成長してくれると信じています」

 アルベル監督の予言だ。

取材◎平澤大輔 写真◎小山真司