12月19日の天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会決勝で、大分トリニータは浦和レッズを苦しめながらも1-2のスコアで最後の最後で力尽きた。J2降格が決まる状況でも決勝に導いた片野坂知宏監督は、この試合で勇退。あと一歩で敗れた悔しさを胸に、次へのステップへと向かう。

上写真=片野坂知宏監督は6年間の指揮を、天皇杯準優勝という立派な成績で終えた(写真◎小山真司)

■2021年12月19日 天皇杯第101回全日本サッカー選手権決勝(@国立/観衆57,785人)
浦和 2-1 大分
得点者:(浦)江坂任、槙野智章
    (大)ペレイラ

「歴史に刻むことができたのではないか」

「やっぱり悔しいですね。率直には、悔しい思いを時間が経つにつれて感じています」

 片野坂知宏監督の第一声は、やはり「悔しい」だった。それもそのはず、6分に失ったゴールで0-1とビハインドで進みながら、90分にペレイラの同点ゴールが飛び出して、準決勝の川崎フロンターレ戦で120+1分に同点としたのと同じような展開に持ち込んだのだ。

「先制されて厳しい展開になる中で、なんとか追いつくことができて、また川崎戦同様、ミラクルを起こすことができるかなと。選手はあきらめずにやってくれて信じられないな、と」

 しかし、その3分後に決勝点を浴びる。

「得点を挙げて追いつくまではいったんですけどね…。コーナーキックからの2次攻撃で素晴らしいボレーと、槙野くんの運というか、やっぱり持っている選手なのかな。それで上回られて悔しい敗戦になりました」

 前半6分と早々に先制され、そのままの流れで浦和に押し込まれたものの、徐々にイーブンに戻していく。この作業がハーフタイムの後に効いてくる。「アグレッシブに、最後まで」と送り出した後半、選手たちはそのとおりのパフォーマンスで前半とは逆に、自分たちの力で浦和ゴールに迫っていった。

 後半が始まってすぐ、47分に右深くを取った渡邉新太がマイナスに戻して町田也真人が狙ったシーンは、DFにブロックされはしたものの、攻撃への意欲を強く示すことになった。「自分たちの動かし方のところでスムーズではなかった」と修正を加え、ビルドアップのときにセンターバックの左側に下田北斗を落とすことで流れを作り出した。そうして浦和のカウンターを我慢強くしのぎながら、主導権を握り続けたのは大分のほう。野村直輝、長沢駿、松本怜と攻撃に武器のある選手を次々に起用して勝負に出た。

 すると90分、ついにこじ開けた。左からの下田のクロスに中央でヘッドで流し込んだのはペレイラだった。準決勝では同じように、下田が右サイドから左足のインスイングのクロスを送ってエンリケ・トレヴィザンのゴールを導き出して同点に追いついたが、今度は左から右足のインスイングのクロスで再びセンターバックが決めるという、まるで鏡写しのような歓喜の同点ゴールになった。

 ところが90+3分、CKの流れから柴戸海がボレーシュート、これを槙野智章にヘッドで流し込まれて、まさかの失点。準決勝に続いて再び延長戦まで持ち込めるかと思った矢先の一発で、力尽きた。

 これで片野坂監督の6年にわたる大分での日々は終わった。J3から始まり、J2、J1へとステップアップ、今季はJ2降格が決まったが、最後は天皇杯決勝という大舞台に挑んだ。敗れはしたものの、最後に円陣を組み、「胸を張って帰ろう、グッドルーザーでいよう」と全員に声をかけたという。

「支えてくれたすべての人に感謝しています」

「天皇杯は最後に悔しい敗戦になりましたが、決勝まで進んできたのは喜ばしいことで、歴史に刻むことができたのではないか」

「J2から1年で復帰するために、この悔しさを生かさなければと思います。またJ1に戻ってきてほしい」

「私がこの6年で感じてきたことは、戦術プラス強度のところで突き詰めていくこと。それを学んだので、次のステップに生かしたいと思います」

 たくさんの感謝の言葉を残して、指揮官は去る。道はわかれるが、それぞれの行く先に向かってまた今日から歩みを始める。

取材◎平澤大輔 写真◎小山真司