高木駿が川崎フロンターレの猛攻を止め続けた。12月12日の天皇杯準決勝で、大分トリニータの守護神は古巣相手に堂々と立ちはだかって、決勝進出の立役者になった。ほどよいリラックスがその源だった。

上写真=次から次へビッグセーブ! 間違いなく高木駿が決勝進出の立役者だ(写真◎小山真司)

■2021年12月12日 天皇杯第101回全日本サッカー選手権準決勝(@等々力/観衆17,595人)
大分 1-1(PK5-4)川崎F
得点者:(大)エンリケ・トレヴィザン
    (川)小林悠

「深く考えていなかった」

 勝利のときが、一瞬、わからなかったという。

「みんなが急に走ってきて、ああ、そうか、勝ちか、と」

 仲間が駆け寄ってくるのを見てやっと、だった。それだけ、止めることに集中していた。

 川崎フロンターレとの天皇杯準決勝は1-1のまま120分を終え、PK戦に勝負が委ねられた。高木はまずは2人目の山村和也のキックを左に飛んで止めてみせると、5人ずつ蹴っても決着がつかず、運命のサドンデスへ。7人目、先行の大分は町田也真人が決めた。川崎Fからは日本代表の山根視来がスポットに立った。ここで高木が左に倒れ込みながらも、正面に飛んできたシュートを右手一本できっちり止めてみせたのだ。

 片野坂知宏監督が語った「高木駿のビッグセーブがなければ勝ちきれなかった試合」の絶賛を待つまでもなく、金星獲得のスーパーヒーローになった。前半から猛攻を浴びながら、止めて止めて止め続けた。

 26分の脇坂泰斗の、27分の大島僚太のミドルシュートを続けてかき出した。45+1分の旗手怜央の至近距離からのシュートも弾き返した。79分には左から中央への素早いパスの連続からマルシーニョが狙ってきたが、恐れず前に出て間一髪でブロック。

 0-0のまま突入した延長戦でも、100分に脇坂の左足シュートをストップし、105分には左を突破してきた脇坂の折り返しに中央で知念慶が合わせにくるのだが、これもしっかりコースに入って抑えた。111分にマルシーニョが右からカットインしてきて放ったシュートも、正面でがっちり抑え込んだ。このあと、113分についに失点を許すのだが、ほかにも何度もピンチを止め続け、好調を実感しながらのプレーに「今日は自分でもびっくりするぐらいいいプレーができました」と充実の笑顔だった。

「等々力だといつもいいプレーができるんです。気持ちよくプレーできるし、川崎はうまいから楽しみながらやったので、いいプレーができたのかなと思っています」

 かつては川崎Fの一員としてこの等々力陸上競技場をホームにしていて、居心地の良さは全身が覚えている。その肩の力が抜けたパフォーマンスが、最後の瞬間に生きた。実は、PK戦では「深く考えていなかった」のだという。

「PKは止めようとは思っていましたけど、あんまり深く考えていなくて。今日は調子が良かったから止められるかなと思っていましたけど、サドンデスになったときから何も考えていなかった。最後は自分が止めれば終了だということがわかっていなくて。止めたら終わりだと考えていなかったから逆にリラックスできて、それがよかったのかな」

 そのほどよい抜け感は、決勝でも大きな力になるだろう。相手は浦和レッズ。

「僕たちは失うものは何もないので、決勝でもぶつかるだけです」

 J2降格の悲しみから、天皇杯の喜びへ。高木は今季最後の試合でもまた、止めて止めて止めまくるつもりだ。

取材◎平澤大輔 写真◎小山真司