Jリーグは12月6日、年間表彰式の『2021Jリーグアウォーズ』を開催した。サッカーマガジンWEBも参加する「DAZN Jリーグ推進委員会」では、J1優勝監督賞を受賞した鬼木達監督にインタビューを行った。史上最多の4度目の受賞となった名将に、そのマネジメント術を聞いた。

「その熱はしっかり伝えたい」

苦しいシーズンも選手たちを鼓舞してトップでテープを切った(写真◎Getty Images)

――長いシーズンでいろいろありましたが、やはり「勝負の5連戦」が大きなヤマ場だったと振り返られてきました。ルヴァンカップとACLで連続で敗退し、帰国して隔離期間の中で行われた、9月から10月の超過密日程の5試合でした。

鬼木 常にいろいろなことで覚悟はしているんですけど、あのときはそれこそ本当に、この1年の中で覚悟を示さなければいけないシーンでした。ルヴァンカップもACLも落として、悲壮感が漂う中でアウェーの徳島戦を迎えるわけですけど、その前にもう1回、このチームに火をつけないと、最後の5試合、6試合はもう、どう頑張っても勢いを持ってくることはできないだろう、優勝争いはしていけないだろう、と思ったんです。とにかく、その覚悟を選手にしっかり話すことだけでしたね。それを話したら、あとはもうやるだけなので(笑)。

――その言葉を聞いて奮い立ったと、多くの選手たちが証言しています。そして、徳島、鹿島、湘南、神戸、FC東京に5連勝です。お見事でした。

鬼木 自分が監督として大事だと思っているのは、チームが向かっていく方向を意識させていくことです。自分の仕事として、そこは外してはいけないと思っています。うまくいかなかったり、勝った負けたというのは、この勝負の世界では常にあることなので、そこは結果論としてはもう仕方ないことです。受け止めるだけですからね。

 でも、やるべきことを示すこと、それをみんなでやっていこう、と伝えることは自分がやるべき仕事なので、そこだけは外さないようにしています。その熱はしっかり伝えたいという思いがあって、みんなが受け止めてくれたのかなと思います。

――日本で最も多くJ1リーグを制した監督、という結果はもちろんなのですが、それとはまた別に、この1年で鬼木監督が「監督としての自分」に誇れることはどんなことでしょう。

鬼木 選手もスタッフもブレずにやり続けられたこと、ですかね。常にモチベーション高く選手をプレーさせ続けたスタッフたち、練習が終わっても自ら向上心を持って自主トレをやっている選手たち。今年限定の話ではありませんけれど、やっぱり自分が監督になってから麻生グラウンドでその光景がずっと続いているということは、みんなの努力だなと思いますね。

――その意味では、いつも口にしているようにスタッフの皆さんのプロフェッショナリズムが大きいということですね。

鬼木 頼れるスタッフがいないと自分は成り立たないです。僕もわからないことはどんどん聞くので、そこからいろいろな意見をもらって、最後に決めるのはもちろん自分ですけど、意見を言ってもらえる環境はすごくありがたいんです。スタッフからも、選手をどう伸ばしていくかを考えて、こういう方向に持っていきたいけどどうですか、と、練習一つとっても自分の意図とずれないように言ってくれます。そうすればこちらも「オレはこういう意図なので、できればこういう感じに持っていってほしい」と細かいところまで言えます。映像を選手に見せるときにも、内容をすり合わせて監督とコーチの言っていることがずれないようにしてくれていて、僕が、ではなくてコーチのほうからやってくれるので、すごくありがたいですね。

――そんなスタッフや選手たちと、来年は自身初の3連覇、そしてアジア王者への挑戦が待っています。多くの人が楽しみにしています。

鬼木 ありがとうございます。もっと力をつけて、どのチームでも圧倒できる力をつけたいと思います。

構成◎平澤大輔

Profile◎おにき・とおる/1974年4月20日生まれ、千葉県船橋市出身。市立船橋高から1995年に鹿島アントラーズに加わり、その後、川崎フロンターレに移ってボランチとしてチームを支えてきた。2006年限りで引退して指導者の道へ。17年に川崎Fの監督に就任すると、毎年必ずタイトルを獲得し、しかも多くの人を魅了する攻撃的で楽しいサッカーを追求して表現してきた。これまでJ1で4度の優勝に導いたが、これはJリーグ史上最多の偉業。2022年はクラブと自身初の3連覇、そしてAFCチャンピオンズリーグ制覇を狙う。