10月24日の明治安田生命J1リーグ第33節で、ヴィッセル神戸が3位争いのライバルの名古屋グランパスと直接対決。2点を先行される苦しい戦いを振り出しに戻したのは、武藤嘉紀の1ゴールとPK獲得の執念だった。「最後まであきらめない」みんなの気持ちがパワーの源になった。

上写真=武藤嘉紀の追撃弾は59分。CKのこぼれ球を押し込んだ(写真◎J.LEAGUE)

■2021年10月24日 明治安田生命J1リーグ第33節(@豊田ス/観衆19,257人)
名古屋 2-2 神戸
得点者:(名)前田直輝、シュヴィルツォク
    (神)武藤嘉紀、アンドレス・イニエスタ

「1点を取れば自分たちのペースになる」

 1得点、1PK獲得。3位争いのライバル、名古屋グランパスとの直接対決で勝ち点1をもぎ取ることができたのは、間違いなく武藤嘉紀のパワーのおかげだ。

 注目の決戦はヴィッセル神戸にとっては最悪の幕開けになった。6分と14分に立て続けに失点して、後手に回った。しかも、ミスからプレゼントするような形になったから、なおさら切り替えと立て直しが必要だった。

 後半にボージャン・クルキッチをFWに投入すると、武藤は前半のFWから右サイドハーフにポジションを移した。イニエスタ、ボージャンで時間を作り、武藤が前を向いてスピードに乗ってプレーするシーンが増えていく。これで前半の劣勢をひっくり返した。

 その勢いを確かなものにしたのが、59分だ。左CKを初瀬亮が中央へ。トーマス・フェルマーレンがヘッドで狙ったボールが相手の守備陣の間をすり抜けていく。その先に武藤がいた。落ち着いて収めて、すかさず左足で押し込む追撃のゴール。

「まったくデザインはされておらず、ファーに人がかなり集まっていたので、自分はこぼれ球を狙いにいきました。ニアで合わせたかったんですけど、ボールがファーにいったので、すぐに切り替えてこぼれ球を狙うように意識しました」

 混雑する場所を避けつつ、その一瞬に備えた準備が生きた。

 このあと、名古屋が5バックに切り替えてサイドのスペースを封じに来た。ならば、強引にこじ開けるだけだ。76分、ペナルティー・エリア内右で受けると寄せてきた吉田豊に対して上半身のシェイクでフェイントをかけて縦突破、たまらず足を伸ばした吉田に倒された。VARチェックのあとの今村義朗主審のオンフィールドレビューによって、吉田のファウルがあったとしてPKに。81分にイニエスタが左上にきっちり決めて、ついに同点に追いついた。

「0-2という数字は、1点を取れば自分たちのペースになることは分かっていたし、あの時間帯に取れたのも非常に大きかったと思います。チームとして最後まであきらめない結果が今日の勝ち点1を生んだんじゃないかと思います」

 その意欲をプレーで示したのが、ほかならぬ武藤本人だった。

「みんなチームのためにプレーすることができていて、一体感は完璧だと思います」

 この貴重な1ポイントで、目標であるAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得のための3位をキープした。残りは5試合で4位名古屋、5位浦和レッズとは3ポイント差。予断は許さないが、武藤のパワーで手にしたこの「1」は大きな意味を持つことになりそうだ。