同級生から「かっこつけんなよ」って
ドリブルはもちろん、パワーショットは魅力的。いわく「貫通力」を意識しているという（写真◎J.LEAGUE）
――試合後に「たまたまです」と話したのは、謙遜なのか、それとも入ったのはたまたまだったけれど、無回転のシュートを蹴ったのはいつもどおりだった、という意味でしょうか。
宮城 そうですね、あの場面はたまたま、とか、運が良かったという言葉が出ちゃいましたけど（笑）、そういう意味でした。
――「入る日もあれば入らない日もあって、今日は入る日でした」と淡々と振り返っていたのも印象的でした。初ゴールの興奮もあったはずなのに、随分とクールだなと。
宮城 時間帯や展開を加味したら喜べるゴールだったとは思いますけど、このチームにいるとみんな志が高いですし、自分のプレーや貢献度、チャンスは多いのに決めていないことを考えて、このチームと自分自身の基準に照らして考えると、まったく喜べはしません。
――J1初ゴールがアディショナルタイムの劇的逆転弾というインパクトからすると、ゴールセレブレーションは控えめにも映りました。両手を広げて立ち尽くす、というものでしたね。
宮城 正直なところ、前日にイメージトレーニングしていたんですよ。僕はあまりイエローカードをもらわないので、点を取って、ユニフォームを脱いで走り回ろうかなと。でも、そこまでのプレーが良くなくて、最悪だと思っていてシュートを打ったら入って。打ったあとの映像を見てもらうとわかると思うんですけど、良かった〜という顔をしているんですね。それと、時間帯がわからなかったので守備もしないといけないし、走り回れないな、と思って。ベンチまで行こうかなともと思ったけど、みんなも動きたくないだろうから、あそこで喜んでいました。
――プレーが良くないとはいえ、その前に脇坂選手が蹴ったFKから山村和也選手がヘッドで同点弾を決めていて、そのFKは宮城選手のドリブルからファウルを受けて獲得しています。大きな貢献ではないでしょうか。
宮城 状況に応じた選択を常にしなければいけないと思っていますけど、途中交代で負けている展開で闇雲に突っ込んでいってしまいました。ドリブラーだから局面を変えなければと思って、不利で抜けないような状況だったのに無理に突っ込んだ形になったので、ファウルはもらえましたけど、そのおかげで得点になったとは思えません。
――逆にドリブルを止められた悔しさもあって、逆転ゴールにつながったと言えそうですね。あのゴールは反響が大きかったのでは？
宮城 同級生からはあのパフォーマンスはダメだぞって言われました（笑）。かっこつけんなよって。今度はもっと喜ぼうかな。点を決めたら喜ばないとですよね。でも、昔から決めても走り回らないし、何も考えずに打つからとっさに決まるので、「あ、入った」という感じで両手を上げるぐらいなんですよ。
――三笘薫選手が移籍したあと、左ウイングのポジションを長谷川竜也選手、マルシーニョ選手、遠野大弥選手、旗手怜央選手らと争う中でのこの一発でした。その意味でも価値があります。
宮城 最初の半年は試合に出られなくて、試合に出られる環境はうれしいです。出始めた頃は試合に出ることが目標というか、試合に出るために、という努力の仕方でしたけど、出始めて課題も見えましたし、同時に伸びしろも見えました。シーズンは終盤ですけど、ここから課題を克服しつつ、どう伸ばせていけるか楽しみです。競争はあるので、負けないようにという考えですね。
――鬼木達監督も、その才能を生かすためにもどんどん強気でシュートを打てばいいと言っています。
宮城 使ってもらっているということは、期待してもらっているということだと思いますし、試合の終盤に攻撃のアクセントとして入れてもらうことが多いので、得点やチャンスメークに期待されているというのは感じています。でもそこで出し切れていない自分が不甲斐なくて、すべてにおいてまだ監督の期待に応えられていないですし、自分の期待にも応えていません。まだまだ毎日しっかりやっていかないとな、という思いです。
――ナチュラルな無回転ショット、ファン・サポーターの皆さんも待っていますので、また素晴らしいゴールを狙ってください！
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE
宮城 天◎みやぎ・てん/2001年6月2日生まれ、神奈川県川崎市出身。川崎フロンターレではU-10から一筋。2020年にJ3カターレ富山に期限付き移籍して今季復帰すると、徐々に力をつけてAFCチャンピオンズリーグ北京FC（中国）戦で川崎F初得点、第32節の鹿島アントラーズ戦で決めた劇的な逆転弾がJ1初ゴールに。パワーショットの源は、臀部や大腿部の筋力トレーニングだという。176㎝、70㎏。