10月1日の明治安田生命J1リーグ第31節で、横浜F・マリノスは湘南ベルマーレに苦しめられた。それを救ったのは、「3枚替え」の1人となった仲川輝人だ。相手のスキを逃さずにボールを奪って、交代から2分後でアシストを決めてみせた。次はゴールを、と宣言する。

上写真=仲川輝人が出場2分でアシスト。自慢の快足が光った(写真◎J.LEAGUE)

■2021年10月1日 明治安田生命J1リーグ第31節(@レモンS/観衆5,190人)
湘南 0-1 横浜FM
得点者:(横)前田大然

「チームを奮い立たせるプレーを」

 一発回答だった。

 64分にマルコス・ジュニオール、杉本健勇とともに交代でピッチに登場した仲川輝人は、66分にはもう、アシストを決めていた。

 ベンチから観察していて、湘南ベルマーレの布陣でどこが空いていて、どう活用するかを模索していた。右ウイングとしてピッチに入るとすぐに、3バックとウイングバックがどちらもマークにつけない場所を見つけて、最終ラインのチアゴ・マルチンスから縦パスを引き出した。これがファーストタッチ。

 ターンして右外の小池龍太に預け、内側の喜田拓也がヒールパスで残そうとしたボールが相手に当たって裏にこぼれた。相手ボールになりかけたところを、仲川はあきらめなかった。

「(直前に)右サイドの崩しが合わなかったのですが、ボールが前にこぼれたので、切り替えを意識してボールを奪いにいきました」

 一歩目でトップスピードに乗る快足を披露して、ボールを奪った。

「相手が僕を見てなかったので、いけるかなと思って奪って、中と横をしっかり見て冷静に(ラストパスを)出せました」

 ゴールライン際まで持ち込んで中央へ。「信じていました」と中央に入ってきた前田大然が左足で流し込んだ。

 顔を上げて中を見てから、すぐにはパスを出していない。そこに、このアシストのポイントがある。

「ボールを奪ったとき、最初にマルコス(ジュニオール)を見たらディフェンダーがパスコースを切ってきて、奥の(前田)大然、さらに奥の(杉本)健勇の動き、そしてディフェンダーの動きを見ながら、ためるだけためました。ディフェンダーを困らせようと意識して、うまく大然が流し込んでくれました」

 一瞬で周辺の状況を把握し、キックすると見せかけながら時間をかけ、動かずに我慢していたGK谷晃生がたまらずステップを踏んだその瞬間にパスを出している。ギリギリの勝負に、勝った。

 前半から湘南にペースを握られ、横浜FMは守勢に回る時間がほとんどだった。アタッキングフットボールの御旗を掲げるチームにとっては意外な展開だが、ケヴィン・マスカット監督は「順位が離れているとはいえ、それは関係ない。レベルの高いリーグだから」と忍耐を続けた。そのマスカット監督が3人を一気に交代させた策が的中。このチャンスには杉本がファーに回り、マルコス・ジュニオールが中央にしっかり入っていて、仲川がアシストと、「代わった3人」が仕事をして、しかも「代わらなかった前田」が決めるという、理想的なゴールになった。

 仲川は3試合前のサンフレッチェ広島戦で軽い負傷、次の名古屋戦は登録外で、前節の横浜FC戦ではベンチで90分を過ごした。3試合ぶりの出場になったが、しっかり結果を残したのはさすがだ。75分にはGK谷がもたつくところにプレスをかけて奪い、無人のゴールに左足で送り込もうとしたシーンもあった。これはわずかに外れたものの、劣勢を引っくり返すパフォーマンスを見せて、1-0の勝利をもぎ取った。

「(出ていない間)勝てていなかったので、自分が途中から出たときには、自分のプレーで何かを起こしてチームを奮い立たせるプレーをしようと思っていました。正直、点がほしい気持ちはありますが、難しい試合を勝ったことが一番大事だとも思います。次こそ点を取ります」

 意外なことに、今季はリーグ戦でまだ1ゴール。この男のゴールが決まればチームは勢いづき、首位の川崎フロンターレを追いかけるパワーになるのは間違いない。

写真◎J.LEAGUE