上写真=鹿島戦、湘南戦と劇的な逆転勝利を手にした鬼木達監督。「勝負の5連戦」を3連勝とした(写真◎小山真司)
「戻る場所はありますから、チャレンジしていこう」
川崎フロンターレが戦った9月22日の鹿島アントラーズ戦と25日の湘南ベルマーレ戦には、いくつか偶然の符合がある。
先制されたこと。逆転したこと。スコアが2-1だったこと。逆転ゴールをアディショナルタイムの「90+4分」に決めたこと。どちらもこれまで出場機会の少なかった若手――宮城天と知念慶――が決めたこと。
そして、選手の配置をいつもの4-3-3ではなくて4-4-2に近い形にして、中盤の底に2人を並べて試合をスタートさせたことだ。
鹿島戦はジョアン・シミッチと橘田健人、湘南戦が脇坂泰斗と谷口彰悟という組み合わせだった。鬼木達監督はどちらの試合後も前半に主導権を握りきれなかったことについては「システムのこともあるかもしれない」と言及している。
だが、相手との力関係やシステムのかみ合わせで選んだ策ではないのだという。
「あくまで、自分たちの良さを押し出そうとしてやっていることは間違いありません」
2020年からここまでのJリーグを席巻した4-3-3システムがあって、「自分たちの武器だと思っています」と胸を張る。それなのに、なぜ?
「戻る場所はありますから、チャレンジしていこうということです」
4-3-3のレベルを高めつつ、次の一手をも探していく。チャンピオンのイスに漫然と座ってはいられない。
「どういう選手で2枚並べるかというところ、それから、そこで並べるということは2トップになったりトップ下の選手を作ることになるわけです。やはり助けが必要なところと強みを出すためにという意味で、ボランチを2枚にして、前で力のある選手を増やしたりとか、そういうところでの選択になります。相手というよりは自分たちの形を増やしていけるか、いろんなポジションでプレーできるか、ということを意識しています」
前線は鹿島戦ではレアンドロ・ダミアンを1トップに、トップ下に旗手怜央を組ませ、湘南戦では小林悠と知念慶のコンビで、知念がやや引いた場所から出ていくという関係になった。弱みを消して強みを出す。中盤の守備のバランスを整えつつ、豊富なストライカー陣を前線に配して攻撃の圧力を増すという狙いだ。
「前半は相手も元気ですし、うまくいっているかというとどうか。これがシステムのところなのか、あるいは仮に後半から4-4-2にしたらもしかしたらパワーが出るかもしれませんし、そこはいろいろ考えながらですね」
システムありきではなく、選手ありきでもない。その両方を組み合わせて、最も力を発揮する戦い方を探す。そんな進化の象徴としての4-4-2である。
そしてもう一つの共通点は、劇的逆転弾は相手DFがクリアしたこぼれ球をいち早く回収したところから始まっているところ。最後の最後まで攻め続ける意志と集中力の表れだ。
「そこは意識はしていますね。相手を押し込むというか閉じ込めるというか、最後は泥臭く、きれいな点ではなくてもという思いがあります。それを体に染み込ませるのは難しいので、言い続けていきたいと思います。言い続けることでいつか体が自然に反応しますから」
王者であろうとも、変わらない。言って、言って、言い続ける。それも鬼木監督の仕事である。
写真◎小山真司