9月26日の明治安田生命J1リーグ第30節で、川崎フロンターレがまたもや劇的な逆転勝利をつかんでみせた。1-1で迎えたアディショナルタイムに同点弾をたたき込んだのは、知念慶。足がつっていながら最後の力を振り絞って決めた劇的な一発に、強い気持ちを込めていた。

上写真=知念慶が、鮮やかなクロスで最高のアシストをした家長昭博と喜びを分かち合う(写真◎小山真司)

■2021年9月26日 明治安田生命J1リーグ第30節(@等々力/観衆4,897人)
川崎F 2-1 湘南
得点者:(川)旗手怜央、知念慶
    (湘)田中聡

「信頼も期待もしています」と鬼木達監督

 今度は知念慶だ。90+4分、家長昭博が右から左足で鋭いストレート系のクロスを送ると、知念がジャンプ一番、ヘッドで渾身の逆転ゴールをたたき込んだ。

 前節の鹿島アントラーズ戦で宮城天がアディショナルタイムに逆転ゴールを決めた興奮のゲームから、わずか3日後。約4カ月ぶりに等々力陸上競技場に帰って戦う湘南ベルマーレ戦で、今回の主役は背番号20だった。

「よく覚えていないんですけど、とりあえず気持ちで……とにかく気持ちで飛び込みました」

 体を投げ出すように跳んだから、そのままゴール脇に倒れたが、右足をつった痛みで悶絶した。

「めちゃくちゃ足が痛かったので、痛さとうれしさで訳がわかんない感じになって」と苦笑いだったが、70分ぐらいにはもうつり始めていたのだという。74分に切った最後の交代カードは山村和也からジェジエウ。山村も足に異変があったからなのだが、知念は「オニさん、やってるわ、と思った」と冗談めかしつつ、本音は「やるしかない。足がもつ限り走ろう」の決意だった。

 左から旗手怜央、脇坂泰斗、橘田健人、山根視来と右サイドへ素早くボールを動かしたことで、家長があいた。クロスを待つその間、知念はじっとゴール中央で待ち構えていた。

「足がつっていて、ゴール前でワンチャン待っていました。そこで全力を出そうと思っていて、つなぎは信じて味方に任せて飛び込むことだけを考えていました」

 家長は後ろに少し戻りながら、得意の左足の前にボールを置く。

「アキさん(家長)があの体勢で持ったときはファーに来ると思ったので、そこに全力で飛び込むことだけ考えました。最後の余力を全部使ってゴールしました」

 本当に最後の最後の力を振り絞って、宙を舞ったのだ。

 前節では宮城天が逆転ゴールを決めていた。それは意識することなく「自分が出るときはいつもやってやろうという気持ちがある」が、「今日はチームとして流れが悪くて、自分が取ってやろうと思っていました」としたたかに狙っていた。鬼木達監督は「ゴールへの姿勢があるときの彼は止まらないイメージがあるので、ストライカーとして出し続けることが大事です。タフなゲームになったときに戦える選手で、信頼も期待もしているので、自信を持って挑んでいってほしい」と最高級の評価を与えた。

「信頼されているというか、オニさんは僕にずっと期待してくれているんです。期待が信頼に変わるように、もっとこのプレーを継続していきたい」

 知念は謙虚に受け止めるが、2試合前の徳島ヴォルティス戦でも先発していて2ゴールを挙げ、今回も先発して1ゴール。

「自分の価値を証明したいと思ったので、強い気持ちで臨めたことが結果につながったと思います」

 強い気持ち……鬼木監督がこれまで何度も指摘してきたのが、「慶は気持ちだけ」の課題だった。この劇的な一撃でついにクリアして、いよいよ覚醒のときを迎える。

取材平澤大輔 写真◎小山真司